⑦
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渋澤の傍らで、可那子の時間はただ穏やかに過ぎていく。
そんな中で耳にした、組同士の抗争が悪化しているらしいという噂。
曖昧なのは、渋澤がそういうことを可那子と暮らす部屋には持ち込まないから。
しかし確かに最近は部屋に戻らない日も多くなっていて、不安が募る。
渋澤を愛する前の可那子だったなら、渋澤がいなくなれば自由に…とも考えたかもしれない。
しかし今はそんなことは考えも及ばない。
渋澤を失いたくない、何もできないけれどいつでもそばにいたい。
渋澤を愛していると思う傍ら、漠然とした不安に押し潰されそうになり、涙があふれた。
***
深夜になって渋澤は部屋に戻った。
寝室に入ろうとしたところでリビングの灯りに気付き、そちらに足を向ける。
泣き疲れた可那子はソファで眠ってしまっていた。
頬に残る涙の跡を渋澤はそっとなで、その体を抱き上げた。
「渋澤さん…?」
ベッドに下ろされたところで可那子は目を覚ました。
体を起こそうとする可那子をベッドに貼り付け、渋澤が訊く。
「抱いても…いいか?」
「は、い…」
初めてされる質問に多少なりとも違和感を感じながらも可那子は、その問いに肯定で返す。
それを受けた渋澤は可那子の服をゆっくりと脱がしながらその肌に唇を滑らせ、ちり、という痛みと共に鎖骨のあたりに痕を残した。
違和感は更に大きくなる。
渋澤は今まで可那子の肌に痕を残したことがなかったから。
「待ってください、渋澤さん…!」
正体の分からない不安に襲われ、可那子は自分の体を開こうとする渋澤を呼んだ。
「どうした、集中しろ」
「や、あぁ…っ!」
しかし渋澤は動きを止めず、可那子の中に自身を突き入れる。
そうなってしまえば繰り返される抽挿に揺さぶられ、可那子は抵抗するすべを失ってしまう。
「あ、あ…っ、や、渋澤さ、あ、ああぁ…っ!!」
いつもより強く感じられる律動にあっという間に昂められ可那子は達するが、渋澤の動きは止まらない。
イったばかりの体にも容赦なく突き込まれ、可那子は繰り返しイかされてしまう。
しかし何度目かの絶頂の時、
「…っ!ふ…、ぅ…んっ、」
くぐもった声が響き、その体がびくんと震えた。
動きを止めた渋澤が見たのは、痛みに歪む可那子の顔だった。
「おい、何を…!」
可那子の唇に血が滲んでいた。
これ以上はダメだと、気を失ってしまいそうな快感から逃げるため可那子は自らの唇を噛んだのだった。
渋澤が指先でそれを拭うと、その手に触れながら可那子が訊く。
「今日は、おかしいです…、なぜ…?」
すると渋澤は僅かに目を見開いた後すぐにそれを細め
「…普段通りだ。集中しろ、と言ったろう」
そう言った直後、ぐりっと可那子の奥を抉った。
「あああぁ…っ!!」
反らされた体を逃がさないように腰を掴み、強く奥まで渋澤はかき混ぜる。
「あ、あ、渋澤さ、…や、お願、も少し、ゆっくり…っ、」
何度イったか分からない体をびくんびくんと震わせながら可那子が苦しげに懇願するが、それでも渋澤の動きは止まらなかった。
「――っ!!」
声にならない声を上げた可那子の意識が、真っ白な闇に包まれるまで。
渋澤は可那子の頬に伝った涙を拭おうと手を伸ばした。
「――…行かない、で…」
その時、可那子の唇からこぼれた言葉にその手が動きを止める。
ぎりぎりまで伸ばされた手は結局その頬に触れることはなく、強く拳を握った渋澤は小さく小さく呟いた。
「…悪いな」
***
可那子が目を覚ました時、既に渋澤の姿はなかった。
不安に押し潰されそうになりながら渋澤の帰りを待つ可那子に届けられた報告は、可那子を絶望の底へと叩き落とすものだった。
親父は…、死にました――…
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