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結局はめでたいことだからと、組を上げてふたりの結婚は祝福された。
そしてそれからの数年は、細かいいざこざに取り紛れながらも穏やかに過ぎて行った。
だからそれは、可那子にとってはまさに青天の霹靂だった。
小さな、だけど重要な土地をめぐって激化する抗争。
決着をつけなければならないということ、そして堂島組のために阿波野自身も戦いに赴くということ。
組のためならば死すらも厭わないという覚悟がその目から見て取れる。
愛想つかしていいんだぜ、と薄く笑う阿波野に、どうして、と可那子は小さく呟いた。
どうして今まで話してくれなかったのですか
どうして勝手にひとりでいくと決めてしまうのですか
どうして勝手に別れると決めてしまうのですか
だったらどうして、結婚なんてしたのですか――…
しかし可那子は、それら全てを必死の思いで呑み込んだ。
阿波野や自分が住むこの世界には、通用しない常識など山ほどあるのだから。
自分の心の平穏を保つために阿波野を困らせることなど、できなかったから。
「や…っ」
けれどそれでも、そんな可那子を抱き寄せようと伸ばされた手を可那子は思わず振り払ってしまう。
「…っ、ごめ、なさ…」
直後自分の行動に驚いて泣きそうな顔になる可那子だったが、
「…いや、悪かった」
静かにそう言って、阿波野はそのまま部屋を出て行った。
ひとり残された部屋で可那子は泣いた。
泣いて泣いて、ふと唯一の結論に辿り着く。
それはどうしてすぐに気付かなかったんだろうと呆れるくらいの簡単な結論だった。
寝室に入ると、阿波野はベッドに腰掛け窓の外を眺めていた。
可那子はそこへ歩み寄り、静かに阿波野に抱きつく。
「…可那子」
僅かな戸惑いがその声から伝わってくるが、可那子は構わず訴えた。
「抱いて、ください…」
「…、いいのか?」
阿波野は敢えて可那子の体を離し、その表情を窺いながら訊く。
はい、と答える妙に吹っ切れたようなそれが少し気になったが、それでも阿波野は可那子を抱いた。
何度も何度も、可那子の中に自分を刻み込むように。
止めどなくあふれる涙を、拭ってやりながら。
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