②
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渡瀬が戻ったのは、明け方近くだった。
「お帰りなさい」
笑顔で出迎えた可那子だったが、渡瀬の様子に少しその表情が曇る。
「まだ…大丈夫じゃないみたい、です…」
そう言った可那子の体を静かに抱きしめ、渡瀬は小さく訊いた。
「抱いても…ええか?」
***
「今日は…勝さんの好きなように、抱いてください…」
ふわりと抱きついて肯定を示した可那子を抱き上げて寝室へと入り、ゆっくりとベッドに下ろされた可那子の言葉を遮るように渡瀬はその唇をふさいだ。
まだそこまで余裕はないと思っていたのに、思いの外渡瀬の手は優しかった。
――だから可那子は油断してしまった。
気を張ることを、忘れてしまっていた。
「痛…っ」
そこに触れられた時、思わず声が出てしまった。
慌てて口を押さえ首を振るが、目を見開き動きを止めた渡瀬は問う。
「昼間の、あれのせいか」
「違います!だからやめないで…!」
「何言うてんのや、続けられるわけないやろ」
「でも私がしたいんです、だからお願い…!」
体を起こした渡瀬に縋るように身を起こし、可那子は訴える。
「そのおねだりは聞いてやりたいけどな、せやけど今は駄目や」
「いや…勝さんお願いです…!」
当然取り合わない渡瀬に、しかし可那子はなおも食い下がる。
すると渡瀬はそんな可那子の肩を掴み、頼むから!とわずかに語気を強め可那子を黙らせた。
「頼むからもう少し自分を…、いや、ワシにも――…もっとお前を大事にさしてくれ…!」
「――…っ、ごめ、なさい…」
強められた語気とは裏腹な苦しげな言葉に自分本位な物言いだということを咎められているようで、可那子は自己嫌悪に陥ってしまう。
「違う、そこは謝るとこやない、あないなことしといてどの口が言うんやて怒るとこやで…?」
言いながら渡瀬は、あふれた涙ごと可那子を強く抱きしめた。
そのままごめんなさいと呟く可那子が泣き止み眠りに落ちるまで、渡瀬はその体を離さなかった。
――そして、小さく呟く。
「ワシは――…お前を泣かしてばっかやな…」
***
可那子が目覚めると陽はもうかなり高くなっていた。
傍らに渡瀬の姿はなく、可那子は小さくため息を吐く。
夕方近くなった頃、渡瀬組の組員から渡瀬はしばらく戻れないという連絡が入った。
仕方ないと分かっていつつもこみ上げる漠然とした不安に押し潰されそうな夜を、可那子はいくつか過ごすことになる。
だから、5日目の朝に明日戻れそうだと連絡が来た時は心の底から安堵した。
深夜になりそうだから寝ていていいと言われても眠れるはずもなく、戻った渡瀬がシャワーを浴び終えるのを待って、可那子はリビングへと向かった。
「なんや、寝ててええ言うたやろ?」
リビングの入り口に所在なげに立つ可那子に気付きそう言いながらも、渡瀬は手を伸ばし自分の横に座るよう促す。
「長いこと留守にしてすまんかったの」
「…、いえ…」
声音はいつも通りだが、どこかよそよそしい雰囲気を感じてしまい可那子はぎゅっと拳を握りしめる。
そして、勝さん…と小さくその名を呼んだ。
しかしそこから先が続かなかった。
しばらくの沈黙の後、呼ばれた渡瀬の手が可那子の肩に回されるのと同時だった。
「勝さん…、したい、です…」
消え入るような声。
渡瀬は目を瞠り、真っ赤になって俯く可那子を見つめた。
あの日混乱の中で自分がしたいんだと口走った時以外、自らこんなことを言ったことはない。
渡瀬の様子を窺うこともできず、沈黙がいたたまれなくて涙が出そうになる。
お願い、何か言って…!
そう思った時、大きな手が頬をなで、顎をすくい上げた。
「勝さ、…っ」
そのまま重ねられ割られた唇から舌が滑り込み、しばらくぶりに感じる熱さに吐息が漏れる。
渡瀬の腕が可那子を強く抱き寄せ、その体に腕を回して可那子もそれに応えた。
息が苦しくなってもなおお互いの唇を貪り、舌を絡め合う。
深い口づけを堪能し、それでもまだ名残を惜しむようにゆっくりと唇が離れた時、渡瀬は可那子の体を抱き上げた。
***
寝室のベッドの上、可那子は一糸纏わぬ姿で組み敷かれていた。
晒された朱に染まる肌の上を武骨な手が滑る。
首もとに顔を埋めたままその手を太ももに這わせた渡瀬が、ふと顔を上げた。
「勝さん…?」
「ほんまにもう大丈夫なんか、確かめたるわ」
「…!や、いやです…っ!」
言いながら体をずらした渡瀬がこれから何をしようとしているのか理解した可那子は、慌ててそれを止めようとする。
しかし肩で脚を割られ太ももを抱えられてしまってはどうすることもできない。
「いや、ああ…っ!!」
直後、体がびくんと跳ねた。
熱い舌が中心を割るように這い、そのままぬるりと侵入する。
「勝さ、あっ、ゃ、あ…っ、」
シーツを掴み無意識にベッドを上ずろうとするが、実際は足をばたつかせることしかできていない。
指先で拡げられ敏感な粒を舌で弾かれてしまえば、
「――…っ!!」
せめてもの抵抗なのか口を手で強く押さえ、しかし背を弓なりに反らして可那子はあっけなく達してしまう。
「早いな」
「知らない…っ」
唇を拭いながら体を起こした渡瀬に言われ、可那子は恥ずかしそうに顔を背けた。
「こうなるんが分かっとったから嫌やったんか」
初めてしようとした時、可那子はそれを頑なに拒んだ。
その理由は理解したが、しかし即ちそれは渡瀬ではない誰かがイかせたことになる。
言葉の端にわずかに嫉妬がにじむが、それを知ってか知らずか可那子は答える。
「指、だけでも――…なのに…、そんな風にされたら絶対こうなると思ったから…、だから、いやだったんです…っ」
恥ずかしすぎて、拗ねたような怒ったような表情で可那子は渡瀬を見上げた。
そこで渡瀬は思い出す。
可那子の初めてを奪ったのは自分だったということを。
はは、と笑った渡瀬は、可那子の頬をなでて言う。
「せやけどもっと気持ちええもんがあるやろ?…言うてくれ」
可那子は渡瀬の求める答えをすぐに理解した。
そしてそれは今の自分にとっても唯一の答えであることを示すために、腕を伸ばし渡瀬を抱きしめる。
「勝さんが…、欲しいです…」
耳もとで囁かれた言葉に渡瀬はわずかに口角を上げ、可那子の脚を持ち上げた。
「ああぁ…っ!」
直後、熱の塊が可那子の中を埋め尽くした。
灼けつくような快感が全身を駆け巡る。
「や…っ、あ、勝さん、――…っ!!」
きゅうきゅうと渡瀬を締めつけて可那子は達した。
「ええな、その反応」
その強さにわずかに眉を動かしそう呟いた後渡瀬は
「せやけど…ちと締めつけすぎ、や…!」
「ああ…ッ!!」
そのきつさに抗うように可那子の脇に手をつき、その更に奥を求めて腰を押し進めた。
「あ…っ、あ、あ、勝さん、ゃ、ああ…っ、」
打ち付けられ体を揺さぶられるのに合わせて声を上げ二の腕に爪を立てながら可那子は、何度も絶頂へと導かれる。
そして可那子の最奥に渡瀬が精を吐き出した時にもう一度達した可那子は、びくびくと震わせながらもその体をぐったりと弛緩させた。
わずかに上がった息をすぐに落ち着かせた渡瀬はその横にどさりと体を投げ出し、その胸に可那子を抱き寄せた。
***
「ありがとうございます」
先に口を開いたのは、渡瀬はきっと謝るだろう、しかしそれはしてほしくないと考えた可那子だった。
「戻ってきてくれないんじゃないかと、少し不安でした…勝さん、優しいから…」
「これ以上お前に触れたらあかんのやないかと思っとったんや…」
渡瀬はそう答えながら、抱きしめる腕に少し力を込めて続けた。
「まあどだいムリな話やったんやけどな」
それを聞き安心したように息を吐いた可那子を更に強く抱きしめ、堪忍な、と渡瀬はぽつり呟いた。
「少しだけ不器用でしたけど…勝さんが心の深いところまで見せてくれたのは、嬉しかったです…」
ゆっくりと首を振った可那子が渡瀬を見上げると、そうやな、と渡瀬が小さく言う。
「お前の前ではもう何も取り繕う必要ないっちゅうことか」
それを受けてはい…とやわらかく微笑む可那子。
しかし続けて耳もとで囁かれた言葉に色々と思い出してしまい、恥ずかしそうに頬を染めるのだった。
――せやからお前も遠慮せんと、したい、てもっと言うてええんやで…?
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