傷痕
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「好きなヤツがいるいうんは嘘なんやろ?」
可那子を抱きしめたまま、渡瀬が問う。
「…はい、でも…好きな人がいるのは、本当です」
素直に答えた可那子のその言葉の意味を渡瀬は考えた。
可那子はそれを見てふふっと笑うと、しわになったシーツをたぐり寄せながら静かに体を起こす。
そしてぽつりぽつりと話し始めた。
「実はその人に、付き合おう…みたいなことを言われたんです
すごく嬉しくて…でもそれ以上に、すごくこわかった…
その人ならもしかしたら受け入れてくれるかもしれないと…思わなかったといえば嘘になります
でも拒絶されたら…心が多分、耐えられないと思いました
だから、嘘をついたんです
でもその人は諦めてくれなくて…
だったら、と思いました
一度くらいならきっと隠せる、だから一度だけ…抱いてもらおうと
でも無理でした
どうしてその人を傷つける必要があるのかと、そもそも私に彼を傷つける権利なんてないんですから…
だから、傷を見せたんです…」
可那子の言葉がそこで途切れ、少しの沈黙の後渡瀬が口を開いた。
「で、そいつは…受け入れてくれたんか」
「…はい、自分にも刺青が…消えない傷があるのだからと、」
答える可那子の語尾が震える。
「…そんなの全然違うのに、…私の傷なんかと同じにしていいはずないのに…!でも、私はそれでも…!」
体を起こした渡瀬が可那子を強く抱きしめる。
その腕の中で、可那子は慟哭ともとれるような哀しい声で自分の想いを吐き出した。
「どうしても、渡瀬さんが好きなんです…!」
ごめんなさい、と呟きながら泣きじゃくる可那子を渡瀬はただ抱きしめ続けた。
時折髪をなでながら可那子が落ち着くのを待つ。
そしてぽつり、口を開いた。
「おおきにな、可那子」
「…え…?」
「こないに素直で真っ直ぐな告白されたんは初めてや」
「…っ、」
自分の身勝手さを露呈しただけだと思っていた可那子は、渡瀬の言葉に驚く。
渡瀬はそんな可那子を見てふ、と笑うとその体をどさりとベッドに押し倒した。
そして言うたんはワシが先やが、と前置きし言葉を続ける。
「なんや目一杯応えたらなあかんなて思たわ」
「渡瀬さ…、ん…っ」
そのまま何か言いかけた唇をふさぎ深く口づけると、戸惑い気味だった可那子もそれに応えるように渡瀬の体へと腕を回した。
歯列をなぞられ舌を絡め取られればこぼれる息が熱を帯び始め、比例するように体の奥が熱くなっていく。
渡瀬は濡れた瞳で見上げる可那子の頬をそっとなでてから身を屈めると、耳もとで小さく囁いた。
「愛しとるで、可那子」
その言葉と共に、ふたつの体はまたひとつになる。
傷痕はもう、痛まない。
(17,4,14)
2/2ページ