傷痕
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可那子の働く店は渡瀬組御用達の料亭だった。
時々ハメを外しすぎるのはヤクザ云々関係ないからと、他の従業員が敬遠するその部屋の給仕も可那子は嫌な顔ひとつせずこなしていた。
「ごゆっくりどうぞー」
ラストオーダーの酒を届け、宴会場を出てふう、とひと息。
「可那子」
「あ、渡瀬さんいつもありがとうございます」
声をかけてきたのは渡瀬組組長の渡瀬勝だった。
「今日はもう上がりか」
「はい、最後までお世話できずすみません」
「いや、ちょうどええわ」
「え?」
申し訳なさそうに答える可那子を渡瀬は真っすぐに見つめた。
「回りくどい話は面倒やから単刀直入に言うが…ワシの女にならんか、可那子」
単刀直入に言われたことより想像もしていなかったその内容に可那子の思考が一瞬止まり、答えの分かりきった質問をしてしまう。
「えーっとそれは…お付き合いするとか彼氏とか彼女とか…そういう意味、ですよね…?」
「そうや、それ以外にないやろ?」
当然のように即答され、可那子は言いにくそうに告げた。
「あー…、ごめんなさい私、好きな人がいるんです…」
それに対しそうか、と渡瀬が答えたので話はそれで終わりだと思っていた。
「だったら繋ぎでええわ、それなら構わんやろ?」
頭を下げその場を去ろうとする可那子だったが、耳を疑うような渡瀬の言葉に足が止まる。
「え、でもそれじゃ渡瀬さんが…」
渡瀬のその申し出に応えられないほど子供ではないという自負はある。
しかし渡瀬の気持ちを知ってしまっている以上、そう簡単にYESとは言えない。
そんな可那子の戸惑いを一蹴するように渡瀬は言った。
「ワシがいい言うてんのや、ジブンは何も考えんでええ」
***
連れて来られたのは、大阪の繁華街を一望できるようなホテルの一室だった。
促され戸惑いながらもその部屋に踏み込む可那子だったが、
「シャワー、浴びてきてもいいですか?」
窓の外の夜景にも目を向けることなくそう言って渡瀬から離れた。
しかしその足は途中で止まり、渡瀬さん、と可那子は振り向かずに小さく呼んだ。
「見てほしいものが…あるんです」
可那子はそう言うと着ていたワンピースのファスナーを少しだけおろし、肩からそれを落とした。
露わになった背中を見て、渡瀬はその目を見開き言葉を失う。
そこにあったのは、目を覆いたくなるような大きな傷痕だった。
「事故、だったんです。消す努力もしたんですけど、だめで。…、」
気持ち悪いですよね、という言葉は続かなかった。
「女の体にこないな傷、ツラかったやろ…」
ソファに腰掛けたはずの渡瀬がいつの間にか後ろにいて、可那子の体を抱きしめたからだった。
「気持ち悪く、ないんですか…」
「なんでや、そんなワケないやろ。…嫌な言い方かもしれんがこういうんは見慣れとるし、それに…」
渡瀬は言いながら腕をほどくと、服を直しながら振り返った可那子の目の前で自らの服を脱ぎ捨てた。
露わになる、胸から二の腕にかけて描かれた刺青。
正面からは見えないが、背中にもあるのは明白だった。
「言うてみればこれも一生消えん傷痕、それも自ら望んで付けたモンや。…気持ち悪いと思うか?」
可那子は訊かれ、強く首を振った。
「ほんならとりあえず話は終いや」
渡瀬はあっさりとそう言うと可那子を抱き寄せた。
「そんな、それとこれとは話が…っ、」
「同じや。お互い背中に背負っとるモン気にせんのやから、何の問題もないやろ?」
渡瀬の言葉にでも、と小さく呟きわずかに抵抗を見せる可那子だったが、渡瀬が腕を緩めるつもりがないことを悟り観念して体の力を抜いた。
「…でしたらあの、シャワーを…」
そしてそれに気付きようやく力を緩めた渡瀬の胸を軽く押し、この部屋に入った当初の目的を口にするが、
「こないイイ体見せつけといて、今さらお預けはナシやで…」
そう言った渡瀬の唇が、可那子のそれに重ねられた。
***
渡瀬はバックからも激しく突き入れた。
性器の擦れる湿り気を帯びた音と、肌と肌がぶつかる音が響く。
勃つモンも勃たんわ、という過去の男の心無い言葉を思い出し、初めは背を向けることすらを可那子はためらった。
しかし大丈夫やという渡瀬の言葉にそれを受け入れ、徐々に切ない声を上げ始めていた。
「や…っ、あ、渡瀬、さん…っ!」
その時、可那子の奥が渡瀬を強く締めつけた。
それに抗うように渡瀬は抽挿を繰り返し、可那子の耳もとで囁く。
「イきや、可那子…」
「っあ、ああ…っ、や、ああぁ…ッ!!」
可那子の中が更に強く収縮し、その背がびくんと大きく震えた。
渡瀬に見つめられ強く愛されて、事故に遭ってからこの時初めて可那子は、自らの傷のことを忘れることができたのだった。
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