サプライズ
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「おう、可那子やないか」
コーヒーショップを出たところで声をかけられ、聞き覚えのあるその声にあたしの頬は勝手に緩む。
「渡瀬さん!」
振り向いたそこに立っていたのは、やっぱり間違いなく近江連合の渡瀬さんだった。
彼との出会いはこの蒼天堀。
しゃれにならないごたごたに巻き込まれたあたしを助けてくれたのが渡瀬さんで、それ以来何故か時々、渡瀬さんはあたしを飲みに連れて行ってくれるようになった。
そのごたごたの時に彼に恋をしたあたしには願ったりな展開だったし、最近この気持ちは吊り橋効果じゃないってことも確信したばかりだから更にテンションは上がってしまう。
まああたしの気持ちが自分に向けられてるなんて、渡瀬さんは夢にも思ってないだろうけどね。
「今日は仕事休みなんか」
「はい、有給奨励日ってやつで」
たわいもない会話を交わしていると、渡瀬さんがふとあたしの手に視線を向けた。
「旨そうなもん飲んどるな」
「スムージーですよ、飲んでみますか?」
冗談のつもりだったのに、渡瀬さんはどれ、とあたしの手からそれを奪いためらいなくストローに口をつけた。
間接キスですよ、それ…なんて言えるはずもなく、そもそも渡瀬さんはそんなこと気にも止めてないだろうし、あたしはひとりどぎまぎしてしまう。
「なんや、かき氷飲んどるみたいやな」
「そんな身も蓋もないこと言わないでくださいよー」
眉間のシワを深くする渡瀬さんからそれを取り返し、さりげなさを必死で装ってあたしもストローに口をつけた。
スムージーがするりと喉を通り過ぎて、無事に間接キス、ゲットです。
なんて密かにほくほくしていたら、少し先を歩いていた女の人が渡瀬さんを呼んだ。
「…渡瀬?」
「へい、お嬢」
お嬢、ってことは近江連合会長さんの娘さんってことか。
…綺麗な人。
あの人と結婚すれば、渡瀬さんの立場も安泰ってことだよね。
なんて考えて、自分で勝手に考えたくせにテンションが一気に下がっていくのをはっきりと感じた。
ひとり落ち込みそうになっていると、あたしの手からスムージーのカップが再び奪われる。
「渡瀬さん?」
「今日はあっついしちょうどええわ、これもろとくな」
「え?ちょっ…」
予想外のスムージー強奪事件に順応できずにいると、ほなな、と手にしたそれを軽く掲げて見せながら渡瀬さんは歩き出した。
「可那子」
けれどその直後にふと立ち止まり振り返ってあたしを呼ぶと、もう一度それを掲げて言う。
「これの礼に週末メシでも奢ったるわ。予定空けとき」
「…っ、」
ヒマなら飲みにでも行くか、っていういつものお誘いとはちょっと違うそれに、うまく答えることができない。
ここで会えたこと自体が最高のサプライズな上に思いがけないプレゼントをゲットできただけでも今日は最高の1日だったと言えるのに、次の約束までできるなんて本当に今日はなんて日だろう。
一拍遅れて、遠くなりつつあるその背中に慌てて声をかける。
「約束ですからね!」
現金なものでさっき落ちたテンションは再び急上昇。
更にもう一度掲げられる手を見送ってから、天にも昇る気持ちであたしはもう一度コーヒーショップに足を向けた。
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