そこは愛じゃなくて
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可那子は今、兄が紹介してくれた家庭教師のもとを訪れていた。
そこは、直系白峯会の会長室。
目の前には大学入試用の問題集。
高級革張りソファの前にぺたんと座り長いこと頭を悩ませていると、決まって頭の上から声が降ってくる。
「そこ、間違ってますよ」
「うっ、…どこ?」
そしてこれまたお決まりの返事を返す可那子の上に、次に降ってくるのは小さなため息。
しかし、トンと指されたそこを凝視すること数十秒、次に顔を上げた可那子の泣き出しそうな顔を見て峯はふはっと笑う。
峯義孝。
白峯会の会長であり、東城会若頭補佐。
東城会の6代目会長である可那子の兄とは、兄弟の杯を交わした間柄でもある。
「まったく…困った人ですね」
峯はスーツの皺も気にせず可那子の横に座った。
「何度でも教えますから、しっかり理解してくださいね」
「うん、ありがと…」
ペンを走らせる綺麗な手に見惚れてしまいそうになりながらも可那子は、丁寧で分かりやすい峯の説明を頭に叩き込んでいく。
勉強は好きではないけれど、それでも可那子にとってこの時間は、とても大好きな時間だった。
***
「それにしても、峯さんはなんでそんなに頭いいの?」
峯が淹れてくれたコーヒーを飲みながら可那子が訊くと、峯はさらりと答える。
「自分は頭がいい、と思ったことはないですが…特に勉強を頑張った、という記憶もないですね」
「うぅ、今のあたしには嫌みにしか聞こえないよ…」
峯はがくりとうなだれる可那子の頭を冗談ですよと言いながらなで、
「ちゃんと頑張っても駄目だった時は、秘書として雇ってあげますから」
そう言ってやわらかく笑う。
大きな手がとてもあたたかくてどきどきした。
そして思いがけず向けられたその優しい笑顔に、更に心臓が跳ね上がる。
「いいね、峯会長の秘書兼愛人とか?」
それをごまかすように可那子が冗談ぽく言うと、
「……」
「峯さん?」
その言葉に峯はもう一度ため息をついた。
そして――…
「そこは愛じゃなくていいんです、」
言いながら可那子を抱き寄せ、耳もとにそっと囁いた。
「恋人…で、いいでしょう――…?」
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