三島一八⑥
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忙しい一八さんには、バレンタインなんて関係ない。
13日からしばらく留守にするというから12日にスペシャルビターチョコを渡して、私のバレンタインは終わった。
当然ながら暇な14日。
でもぼーっとしてても時間がもったいないから、日頃お世話になってる人たちに感謝の気持ちをこめてチョコレートを作ることにした。
丸めた生チョコを湯煎したチョコでコーティングすれば、外はかりっと中はしっとり。
少し手間がかかるけど、どうせ暇だしね…とチョコ作りに勤しんでいる時だった。
「何をしている」
「!?」
突然後ろからかけられた声にびっくりして、チョコの池にトリュフを落としてしまう。
いるはずのない人の声。
けれど聞き間違うはずもない、愛する人の声。
「一八さん…、どうして…」
「自分の部屋に戻って来たら駄目なのか」
そういう意味じゃないことくらい分かっているくせに、一八さんは不機嫌そうにそう訊きながら振り返った私の後ろに広がる光景を眺める。
「いえ嬉しいです、お帰りなさい一八さん。けどもう少し待ってくださいね、もうすぐ終わりますから」
「ふん、さっさとしろ」
私が答えると一八さんは短くそう言ってトリュフをひと口かじり、僅かに眉を動かすと同時に残りを私の口に押し込んだ。
「これは一八さんには甘すぎるでしょう?」
ふふっと笑いながら唇に残ったココアを拭うと、その手首を掴まれてぐいっと引かれる。
「一八さ、…っ」
そのまま小指の付け根あたりに口づけられて驚いたけど、舌の這う感触でそこにチョコが飛んでいたんだと気付いた。
その後引かれた腕は戻されたけど掴まれた手は離されることなく、今度は一八さんの顔が近付いてくる。
キスされる…と思って目を閉じたけど、一八さんはそんな私の頬をぺろりと舐めた。
「やだ、そんなとこにも付いてたんですか…」
さすがにこれは恥ずかしいなと俯きかけたら、一八さんのもう片方の手に顎を掴まれて今度は唇にキスされた。
いつもとは違う、ほんのり甘い唇。
いつもとは少し違う、優しく深い口づけ。
けれど私の体を否応なく熱くさせるところは、困ったことにいつもと同じ。
それなのに唇を離した一八さんは、
「さっさとしろ」
もう一度そう言って部屋へ戻ってしまう。
…一八さんはひどい人だと思った。
火を点けるだけ点けておいて…ひどい。
湯煎したチョコは固まりかけ。
一八さんの分じゃないからもう明日でいいや、と自分もひどい人に成り下がる。
これはきっと一八さんの思惑通りなんだろう。
だけどそれでいい。
私の全ては一八さんを中心に回っているのだから。
私はそれ以上何も考えることなく、一八さんの背中を追いかけた。
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