ラース・アレクサンダーソン②
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「今日も美味かったよ、ごちそうさま」
いつもそう言って、素敵な笑顔を残してくれる男の人。
町外れで営んでいる小さな喫茶店に時々来てくれるこの人に、私はいつからか恋をしていた。
多くて週に一度、長い時はふた月ほど間が空くこともあった。
名前も知らない、どんな仕事をしているのかさえ分からないのに、それでも彼に惹かれていくのを止めることはできなかった。
次に彼が訪れたのは2月14日、バレンタインデー。
もしかしたら会えるかもしれないという想いも込めて、チョコレートは用意していた。
渡すことなんて、できやしないくせに。
それでも、私はそれを捨てることもできなかった。
渡すあてなどない上に、次はいつ会えるかも分からないのに。
けれどため息ばかりの15日を過ごした翌日、驚いたことに彼がまたお店に来てくれた。
「ごちそうさま」
でも、いつもの笑顔を今日はまともに見ることができない。
「ありがとうございました」
胸が苦しい。
私は、うまく笑えているだろうか。
見送る背中を、お店のドアが隠してしまう。
「――…っ」
その直後、私は彼のために用意したチョコを抱えて走り出していた。
けれど、今なら渡せるかもしれないと思った私の気持ちはお店を出て数歩で落胆に変わる。
右を見ても左を見ても、彼の姿はもうなかったから。
その時、だった。
「もしかして俺を追ってきてくれたと…自惚れてもいいだろうか?」
うつむきかけた私の耳に届いた言葉。
私はその声に、弾かれたように振り返った。
テラス席の端にもたれて立っていたのは、間違いなく彼で。
「どう、して…」
私は驚きすぎて、そう訊くのがやっとだった。
「どうしてももう一度顔を見ておきたかったんだ。それに、往生際が悪いなとは思ったんだけれど…さっきの君の顔を見たら、そのまま素直には帰れなくて」
彼はそう言って照れくさそうに笑う。
「もう一度…?」
彼の言葉になんだか不安を感じて、私は訊き返した。
「半年ほど、日本を離れなければならないんだ。だから…、それ。」
彼は私が抱えている箱を指差した。
「俺にくれないかなって」
…涙が出そうだった。
私は彼に向けて、それを差し出した。
「あなたに、恋をしています…。この気持ち、受け取っていただけますか…?」
「喜んで」
私の精一杯の告白に、彼はいつもの…ううん、いつもよりもっと素敵な笑顔をくれた。
「大事なことを忘れていたな。俺はラース・アレクサンダーソン。君の名前を、教えてくれないか…」
耳もとでささやかれる言葉、そして頬に触れる唇のあたたかさ。
頬が熱くなるのを感じながら、私は彼の耳もとで答える。
直後、私の体は彼の胸に包まれていた。
諦めなくて本当によかった…。
心からそう思った、2日遅れの――素敵なバレンタイン。
もうすぐ閉店時間。
これからやってくるお客さんももういないだろう。
さっきから私は時計とにらめっこ。
だって、彼の残した言葉が頭から離れない。
『店を閉める時間に迎えに来るよ。君をきちんと、憶えておきたいから――…』
お店のドアの鈴が、チリンと音を立てた。
♪Jag älskar dig♪
(14,2,16)
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