三島一八⑨
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部活を終え下校途中だったあたしは、ふと差し掛かった校舎裏で幼なじみの一八が同級生を殴っているのを見つけてしまった。
全身からさっと血の気が引く。
もちろんそれは同級生の身を案じてのこと。
「何、してるの一八…っ!!」
フェンス越しに叫んだら一八の動きが止まった。
その隙に同級生は胸ぐらを掴んでいた一八の手を振り払って、あたしと一八を交互に見ながら逃げて行った。
「ちっ」
その背中を見ながらとりあえず安堵のため息を吐いたら、一八の舌打ちが聞こえた。
「邪魔するな」
不満そうに言いながらフェンスを飛び越えて来る一八。
「邪魔するわよ!一八に勝てる人なんて学校内にいないんだからね、大怪我させちゃったらどうするの!」
「手加減はした」
「それでも!もう、自分の力分かってなさすぎだよ、一八は」
「うるさい」
あたしのお説教なんかどこ吹く風で一八はすたすたと歩いて行ってしまう。
「……」
あたしはその背中にため息ひとつ。
だけどその後、
「でも、ありがとね」
そう言いながら一八の横に並んだ。
「お前のためじゃない。むしゃくしゃしてただけだ」
ぶっきらぼうに言うけど、一八は知ってたんだ。
あたしがその同級生の男子生徒に、断っても断っても嫌がらせのようにしつこく言い寄られていたのを。
こちらを見ない一八の横顔を見上げながらあたしは思い出す。
「ふふ、一八は昔からそうだったよね」
幼い頃三島財閥傘下で会社を経営していた両親を亡くしたあたしは、一八の家に引き取られることになった。
「ねえかずや…あたしも死んだら、お父さんとお母さんに会えるのかな…?」
引き取られたばかりの頃、あたしは泣いてばかりだった。
同じく幼かった一八にはぶっきらぼうに言われたっけ。
「バカだな、会えるわけないだろ!」
だけど、その時からだった。
その時から後は、一八はいつもあたしのそばにいてくれた。
「…なんでここにいるの」
「なんとなくだ」
「ついて来ないでよっ!」
「仕方ないだろ、帰る方向が同じなんだから」
成長して、恋を失った時も、友達とケンカした時も。
あたしの感情の変化を一番に気付いてくれるのが、一八だった。
あたしがどんなに迷惑がろうが、あたしのそれが強がりからくるものかそうじゃないかまで、ばればれだった。
昔は分からなかった。
不器用な彼の、それが優しさだということが。
さみしがりやなあたしを決してひとりにさせないための優しさだということが。
今なら分かる。
不器用な彼の、それが――…愛情だということが。
一八の愛に包まれ優しさに助けられて、あたしはいつの間にか自分でも驚くほど一八を好きになっていた。
「…一八」
呼んで、立ち止まる。
一八も立ち止まって、あたしを見る。
「あたし、一八が好き。…大好き」
「…ったく…、遅すぎだ」
ぐいと抱き寄せられる。
「あと何年待たせる気かと思ったぞ」
口調とは裏腹のやわらかな表情を浮かべた一八は、見上げたあたしの唇に――…優しいキスをひとつ、落とした。
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