勘違いのち、両想い
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仁がゆなと出逢ったのは仁が15歳の時、力を欲し訪ねた平八のもとで、だった。
天涯孤独の身の上となった10歳の時から、里親となった平八のもとで暮らしていたのが15歳のゆなだった。
初めはただの同居人だったふたりの関係に変化が訪れたのは、ゆなが格闘技を始めた16歳の頃。
そのきっかけはゆなが暴漢に襲われた時で、助けてくれた仁の強さを目の当たりにしたゆなが自分も強くなりたいと思ったからだった。
「俺も修行中の身だが、護身術くらいなら教えてやれると思うから、一緒に頑張ろう」
仁はそう言って、その時から自分の稽古の合間を見てはゆなに護身術を手ほどきした。
飛躍的に力をつけていくゆなの成長ぶりに目を瞠る仁だったが、平八は両親が格闘家だった縁でここに来たのだから当然じゃ、と満足げに笑うのだった。
自分に向けられる、稽古の時の真剣で真っ直ぐな瞳と時折見せる屈託のない笑顔。
普段の生活の中でも会話が増え笑顔が増えていく。
そんなゆなに少しずつ惹かれていく仁。
好きだと自覚するのに、時間はさほど必要なかった。
***
仁を取り巻く環境は目まぐるしく変わっていくが、その中でもふたりの時間だけは表面上何ごともなく穏やかに過ぎていく。
仁は休学していたが、ゆなは高校を卒業し、平八の勧めもあって大学へと進んでいた。
そんなある日、仁はゆなが電話しているのを偶然聞いてしまう。
名前は聞き取れなかったが、くん付けで呼んでいたことから電話の相手が男だということは明白だった。
どうしようもなく胸がざわつく。
やはり自分はゆなが好きなのだと、仁は改めて自覚させられていた。
しかし元来無口で照れ屋な仁は、気持ちを伝えることもできないのだった。
日に日に強くなっていく想いを燻らせていた仁は、それから数日後再び電話を聞いてしまう。
「うん、じゃあ明日ね」
そう言って電話を切るゆなの楽しげな様子に、しかし仁はその男と付き合っているのかと訊くこともできない。
お陰でその日の稽古には全く身が入らず、ゆなの不意を突いた攻撃にバランスを崩しゆなを巻き込む形でふたりは床に倒れ込んでしまった。
「…っ!!」
慌てて起き上がろうとする仁の左手は、板の間ではない場所に触れていた。
それは道着の上からでもやわらかさの伝わる、ゆなの胸だった。
「悪い…」
慌ててゆなの上から飛び退き、顔を背けながら小さく謝ると同時に道着の下に着ていたパーカーのフードをかぶる仁。
「今日はここまでにしよう」
振り返らないままそう言って仁は、道場を後にしていた。
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