可愛いひと
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「全くあのくそ親父め!」
ぶつぶつと不満を口にしながら一八は石段を登っていた。
その少し後ろをついて行くももは、さっきから止まらない一八の愚痴に苦笑いするしかなかった。
年明け早々三島本家で新年会をするので、必ずももと共に来るように連絡があり、今現在そこへ向かっていた。
「バテたのか?」
一応ももを気遣かっているのか、石段の途中途中で一八は立ち止まり追い付くのを待っている。
「こんな石段普通の人はすいすいと登れませんてば」
険しく長い石段は、まるで来客を拒むような造り。時折吹き抜けて行く風に身体を持っていかれそうになる。
「全く世話が焼ける」
「すみません」
結局途中からももは一八に抱き抱えられながら、豪壮な冠木門をくぐった。
目の前には立派な日本家屋が建っている。
今は隠居同然の暮らしをしてはいても鉄拳王三島平八の自宅である。
―――威風堂々。
この言葉がぴったりとあてはまる。
「ここが一八さんの育った家なんですね」
すごく大きくて立派な家に圧倒されますねと笑いながら、ももは家屋を、敷地内を見回していた。
数十年ぶりに足を運んだ実家。懐かしいという気持ちなど微塵もない。
三島平八の長男として生まれ、幼い頃から受けていた英才教育の毎日は、苦痛以外のなにものでもなかった。
「一八さん眉間のしわ一段と深くなってますよ。もしかしてがらになく緊張してますか?」
そんなにお喋りをする人ではない一八だが、今日は特に口数が少ないようにももは思っていた。
だから少しからかうような言い方で一八をリラックスさせたいと思ったのだ。
「この俺が緊張しているように見えるだと?」
「やっぱり緊張してますね」
ふふふと柔らかく笑うもも。
「……くだらない事言ってないでさっさと行くぞ」
ふんと鼻をならしてすたすた歩いて行ってしまう一八。
これは照れている時の一八の行動だと分かっている。
……一八さんってば実は可愛いんだよね。
ももだけが知っている一八の素顔。
「本当においてゆくぞ」
「待って下さいよ―――」
嬉しくて自然と笑みが零れた。
―End―
→あとがき。
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