銀城空吾
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昔から人ならざる者の存在は目で視て知っていた。
そんな輩に襲われたあたしを助けてくれたのが彼で、その人ならざる者をホロウと呼ぶのだということを教えてくれたのも彼だった。
でも助けてもらったその時は安全な場所まで送ってくれた彼に名前すら訊けず、ただその背中を見送っただけだった。
次に逢えたのも同じ場所、同じ場面。
一度目に助けてもらった時に、ここら辺は変なのが出やすいから近付かない方がいいと言われたのに…ううん、そう言われたからこそあたしはそこに近付いた。
彼にどうしてももう一度逢いたかったから。
ただ予定外だったのは、その日あたしを襲ったホロウは人の心の内側を攻撃するタイプだったこと。
目の前のそれは、この間亡くしたばかりの父の顔をしていた。
変わらない優しい笑顔で誘うそいつに抗えず抱きすくめられたあたしの目の前で、父―ホロウ―は真っ二つに切り裂かれた。
父を失ったと錯覚し泣きじゃくり錯乱するあたしを彼は、悪かったと謝りながらあたしが泣き止むまでずっと抱きしめていてくれた。
だからあたしはその彼の優しさに付け込んだ。
彼はこれっぽっちも悪くないのに。
あたしは感謝しかしちゃいけないのに。
ひとりになりたくないと言えば、彼の部屋へ連れて帰ってくれた。
何も考えたくないと言えば、壊れてしまうんじゃないかと思うくらいに激しく、そしてどこか労るように優しく抱いてくれた。
父ひとり子ひとりだったから、悲しかったのは本当。
でもそれを盾にして自分の欲望を叶えたあたしは、最低な女。
もう一度助けてくれるのを勝手に期待してダメだと言われた場所に近付いて。
期待通り助けてもらっただけじゃ飽きたらずその優しさに付け入って。
呆れたでしょ?
愛想、つきたよね。
あたしがそう言ったら彼は、薄く笑って言った。
最低なのは、俺の方だと。
父を亡くしたばかりだったのは本当に気の毒だと思った。
だが俺はもう一度逢えたお前を逃がしたくなかった。
だから父親を呼んで泣くお前の弱った部分に付け込んだんだと。
俺が先だろ、と自嘲気味に笑う彼。
少し驚いたけど、それよりもあたしは嬉しかった。
だってそれってつまり、あたしと同じように彼も求めてくれていたってことだから。
そっか、じゃあつけこんでくれたことにも感謝しないといけないね。
そう言ったら彼はふはって笑って、どんなお前でも関係ねえ、好きだぜって言いながら抱きしめてくれた。
あの温もりは一生忘れない。
大好きだったよ、銀城。
不器用で優しかった、あたしの――…
――…あたしの、永遠――
(15,5,19)
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