堂島大吾⑤
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「ねえ堂島、ボタンちょうだいー」
「あ、あたしも!実は結構いいなって思ってたんだー」
高校卒業までの約束で、あたしは堂島家にお世話になっていた。
今日がその終わりの日。
「ばいばい、…大吾」
クラスメイトの女子に囲まれる大吾を遠くに見ながら、あたしはぽつりと呟きそれに背を向けた。
人懐こい野球部のスラッガー、品田のお陰もあって入学当初よりは周りに打ち解けた大吾。
今日はこのまま、卒業パーティーにも皆に連れられて行くんだろう。
大吾が帰ってくる前に家を出たかったから、ちょうどよかったんだよね。
そんなふうに無理やり自分を納得させる。
だってあたしは大吾が好き。
父の親友の息子だった男の子は、いつの間にか大好きな、大好きな人になっていた。
でも分かってた。
大吾は堂島家の跡取りでこれからは違う世界で生きていくんだってこと。
あたしには手の届かない人、になってしまうんだってこと。
何度も自分に言い聞かせたそれを、反復しながら歩く桜並木。
ふと名前を呼ばれたような気がして振り返ると、そこにはこちらに向かって走って来る大吾の姿があった。
「大吾どうして、…って言うか、大丈夫?」
あたしの前で止まり膝に手をついて肩で息をする大吾の姿に、驚きを通り越し心配になって声をかけた。
「くっそ…、体力ねんだから走らせんな」
するとゆっくり体を起こした大吾に理不尽な文句を言われ、あたしはふふっと笑って言い返す。
「たばこ、やめればいいんじゃない?」
そこで大吾はふと考える素振りを見せ、そして小さく呟いた。
「…そうだな。キスする時煙草くせえって言われるのもなんだし、そろそろやめるか」
「大吾…?」
それを聞き返す間もなく、大吾はいつもとは違う真剣な表情であたしを見る。
「まぁ今はそんなことはどうでもいい。今はこれをどうしてもお前に渡したくてな」
言いながら大吾は、制服に唯一残っていた第2ボタンをぷつりと外した。
手のひらに乗せられた、少しくすんだ金色のボタン。
それを見ていたら目の前が滲んで、あたしはその時初めて自分が泣いていることに気が付いた。
卒業式でも、泣かなかったのに。
次の瞬間、桜の花びらが踊る。
あたしの体は――…大吾の腕の中だった。
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