峯義孝④
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今日は峯さんの帰りが遅いからと、生憎の雨だったけどあたしはひとりで買い物に出かけた。
遅くなっちゃったなと少し焦りながらのその帰り道。
本当に偶然、高そうなお店から出てくる峯さんの姿を見つけたあたしは嬉しくて駆け寄ろうとした。
だけどその時峯さんの影に女の人が見えて、あたしの足は何かに掴まれたように動かなくなる。
「…っ!!」
直後、そのひとが突然峯さんに抱き付いた。
あたしの手から傘と荷物が滑り落ちて、その音で峯さんがこちらに振り向く。
瞬間的に、落とした物を拾う余裕も何もなく、あたしは踵を返して走り出していた。
名前を呼ぶ声と足音で、すぐに峯さんが追いかけてくるのが分かった。
もちろん自分から立ち止まったりはしなかったけど、すぐに捕まってしまったあたしは強制的に立ち止まらされた。
峯さんの腕に抱きすくめられて。
だけどさっきのひとから移ったんだろう香水の匂いが峯さんのスーツから感じられて、あたしは強く抵抗した。
「やだ、離して…っ!やっぱり峯さんはああいう大人の女の人がいいんでしょ!?」
後ろから回された腕をほどこうとするけど、峯さんはその腕に更に力を込めながら言う。
「何か誤解しているようですが、あの女性は仕事の…」
けれどそこで何かに気付いた様子で言葉を切った峯さんは、ふっと笑ってから続けた。
「いえ、取引先の相手にもなっていませんね。俺にあんなことをしても逆効果だというのに」
「どういう、意味…?」
そう問うと、峯さんはようやくほどいた腕であたしの体を反転させた。
そして妖艶に笑いながらあたしの顔を覗き込む。
「分かりませんか?俺に色仕掛けが通用するのは、あなただけだということですよ」
「…っ、」
峯さんは本当にずるい、そういうことさらりと言うんだから。
そんなこと言われたら、もうなんにも言えなくなっちゃうよ。
「今さらですが、傘に入ってください」
その時ようやく気付いたけど、峯さんはあたしの傘も荷物もちゃんと拾ってきてくれていた。
でもそれは広げず、自分の傘にあたしの肩を抱き寄せて入れてくれる。
やっぱり、当たり前だけど、峯さんには敵わないな。
観念したあたしはおとなしくそこに収まって、峯さんと一緒に帰り道を歩き出した。
「ねえ峯さん、あれほんとにほんと?色仕掛けが…っていうの」
あたしはふと思い出して、隣を歩く峯さんを見上げる。
峯さんがその場しのぎの嘘を言うとは思ってないけど、まだまだ色気より食い気、みたいなあたし自身が一番自信を持てていないから。
すると峯さんはふわりと笑ってもちろんです、と即答してくれたけど、
「…が、無意識無自覚というのは時々罪だなとも思います」
続けてそう言って苦笑いを浮かべる。
「?」
「たとえばこの雨に濡れたあなたにすら、俺は欲情するということですよ」
「――…っ!」
思ってもいなかった言葉に一気に顔が熱くなる。
透けてないよね!?って思いながらあたしは、胸もとを隠すように自分を抱きしめた。
「帰ったら抱きます。いいですか?」
耳もとで囁くように訊かれて、あたしは俯いたまま小さく頷くことしかできない。
でも顔を上げたら峯さんの優しい瞳があたしを見つめていて。
あたしたちは傘の陰で、そっとキスをした。
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