03:いないと寂しいなと思った
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「休み?」
「ええ、なんでも親御さんが遊びに来るとかで」
今はもう夜もかなり更けた時間で客足は少ないものの、もう少し早い時間は忙しかったんだろう、マスターは少し疲れた様子で答えてくれた。
そういえばこの店で働くようになってから可那子は一度も休んでいない。
正しくは俺が店に来る時は、ということだが、そのことに気付いた俺は途端に手持ち無沙汰になった。
ロックを1杯呑んだところで店を後にし、ふと思い立って携帯を取り出した。
時間も時間だし忙しい人だからどうかと思ったが、幸い電話はすぐに繋がった。
「珍しいな大吾、お前から電話なんて」
「こんな時間にすいません桐生さん、よければ少し呑みませんか」
本当になんとなく俺は桐生さんを呼び出し、近況報告も兼ねて色々と話をした。
その流れで可那子の話題にもなった。
あの店は桐生さんも通っているから可那子のことは知っている。
しかし皆が呼ぶので名前は知っているが、会話という会話はしたことがないと言う。
そのことを意外に思いながら俺は次の店のドアを開けた。
「いらっしゃいませ」
出迎えてくれる声は、しかし俺の望む声とは当然違う。
そうか、と俺はようやく気付き、苦笑いと共に桐生さんを穴埋めに使ってしまったことを申し訳なく思った。
俺は寂しいと思っていたんだ。
店に足を運ぶたびに迎えてくれる笑顔が、他愛もない話題を楽しそうに振ってくれる存在が、そこにないことを。
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