02:いい奴だなと思った
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「同じのを」
「今日は呑みすぎですよ、堂島さん」
マスターに止められ、しかし今日はもう少し呑みたい気分だった俺は食い下がる。
「じゃあもう1杯だけ」
「だめです。…ああ、いらっしゃいませ」
有無を言わせない笑みを浮かべたマスターはそのまま新しい客の対応に行ってしまう。
仕方ない別の店で呑みなおすかと思った時、目の前にグラスが差し出された。
「ナイショですよ?」
顔を上げると、可那子がにこりと笑う。
「…可那子」
「はい?」
「バレてる」
俺は可那子から見て右方向を指差した。
そこにいるのは、こちらを見ているマスターの姿。
あらら、と呟いた可那子は、しかしその後ぺろっと舌を出しえへへと笑う。
それを見たマスターも、肩をすくめるだけだった。
マスターにとって可那子は娘のような存在なんだろう。
可愛くて仕方ないといった様子が見てとれて、ありがとな、と可那子に伝えた後俺はマスターに向けて軽くグラスを掲げて見せた。
「可那子ちゃん、勝負しよう!」
その時、ダーツの前に立った男が可那子に声をかけた。
「はい、いいですよ!」
笑顔で答えた可那子は、今日は負けませんよ!と言いながらダーツに向かう。
可那子はいつも相手を見てそれに合わせ、気持ちよく勝たせたり時々は僅差で勝ったりする。
今の自分は店員で相手は酔った客だということも弁えて振る舞う可那子を眺めながら思う。
こんな気のいい奴、久しく出会ってねえなと。
おそらく心と呼ばれる部分が、あたたかくなった。
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