01:放っとけないと思った
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「いらっしゃいませ!」
可那子との出逢いは行きつけのバーだった。
いつものようにドアを開けたつもりだったが、マスターとは違う女性の声に迎えられ店を間違ったかと焦って顔を上げた。
「いらっしゃいませ」
見慣れた店内に安堵すると同時に聞き慣れたマスターの声が耳に届き、俺は気を取り直していつもの席に腰かけた。
「いらっしゃいませ、ご注文は何になさいますか?」
「あ、ああ…いつもの」
おしぼりを受け取りながら、つい普段通り答えてしまう。
それに気付いてロックを…と言おうとするが、かしこまりました!と笑顔で答えた彼女は既に俺に背を向けグラスに手を伸ばしていた。
しかしそこで動きが止まり、恥ずかしそうな申し訳なさそうななんとも言えない表情で振り返って訊ねてくる。
「あの、いつものって…」
その表情がツボに入り、俺は思わず笑ってしまった。
そこへ別の客の相手をしていたマスターがとんできて頭を下げられたが、それよりも、と新しい従業員を紹介してくれるよう頼んだ。
名前は可那子、先週からこの店で働いているという。
都会に出て来たのも初めての、右も左も分からない田舎者ですが今後ともよろしくお願いしますと笑顔を見せる。
「おっちょこちょいなのは直した方がいいな」
俺がからかうように言うと、努力します、と気合いを入れて見せた。
しかしその後もウイスキーの焼酎割りを作ってみたりアイスピックで自分の手を刺しそうになったりと、色々やらかしてくれる可那子。
マスターにしてみればたまったもんじゃないだろうが、俺としては横から軽く口出ししながら退屈しない時間を過ごさせてもらった。
この店は何より雰囲気が好きで通っている。
しかし今日からはもうひとつ目が離せない楽しみが増えたなと俺は実感していた。
言うなればそれは――危なっかしくて放っておけない、妹のような。
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