09:甘えたくて
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仕事でミスした時、人間関係がぎくしゃくした時。
嫌なことつらいことがあった時、それがふたりに関係しない以上はどんなことであれ、様子がおかしいことを大吾に指摘されてから話し出す可那子。
「お前はもっと甘えていいんだぞ」
肩を抱かれ優しくそう言われても、何と答えたらいいか分からない。
本当はもっと甘えてみたかった。
落ち込んでいる時に慰めてもらったり、帰りたくないとわがままを言ってみたり。
しかしそんなことは許されない環境で育ってきた可那子には、そのやり方が分からなかったのだった。
ふわりと頭をなでられて見上げた大吾の表情は、どこかさみしそうで。
甘えないイコール信頼していないと思われているんじゃないかと、可那子は不安に駆られた。
「――…っ!」
それだけは違うと伝えなくてはと焦った可那子は、コーヒーを淹れるために立ち上がった大吾の背中に抱きついた。
それが可那子の精一杯だったから。
ふたりの間に沈黙が下り、可那子はこの後どうしていいのか分からず固まっていた。
するとその時大吾が小さく笑った気がして、可那子は慌てて大吾から離れようとする。
しかし直後、その腕を掴みそのまま振り返った大吾に抱きしめられていた。
「お前は本当に可愛いな…」
髪をなでながら大吾は言い、その後申し訳なさそうに続ける。
「本当は付き合う前から気付いてた、お前がそういうの苦手なんだってこと。でも俺には甘えてくれるだろうなんて自惚れてた、無理させたみたいで…悪かったな」
「そんな、謝らないでください…っ」
その言葉に顔を上げた可那子は、慌てて言葉を返した。
「大吾さんはきっと受け入れてくれるって、私も分かってました。本当はもっと甘えてみたかったです、愚痴聞いてもらって頭なでてほしいなとか、抱きしめてほしいなとか、今日は帰りたく…ない、とか…」
一気にまくし立てたまではよかったのだが、途中でふと自分が何を言っているか気付いた可那子の声は、尻すぼみに小さくなる。
しかし大吾は満足げに笑い、可那子をもう一度自分の胸に抱き寄せた。
「言えるじゃねえか」
「っ、ごめんなさい…」
「謝らなくていいから、もう一度聞かせてくれ、可那子…」
耳もとに囁かれ、大吾の胸に顔を埋めたまま可那子は消え入りそうな声で呟く。
「…、今日、は…帰りたくない、です…」
見下ろすと、真っ赤な耳が大吾の目に映る。
そっと顔を上げさせてその唇に優しくひとつキスを落とした大吾は、そのまま可那子を抱き上げた。
「あ、あの大吾、さん…」
戸惑う可那子をよそに足を進めた大吾は、寝室のドアを、パタンと閉めた。
甘えたくて
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