08:約束したので
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可那子は品田をとても愛していた。
だから何も話してくれないその恋人から何かを聞き出そうとはしなかったし、責めたりもしなかった。
しかしこの日、知らない男と一緒にいる品田を見た可那子は何故かとても不安になった。
もう会えなくなってしまうんじゃないかという不安にかられた可那子は、しかし声をかけることはできないまま新幹線のホームまで跡をつけて来てしまっていた。
「可那子、ちゃん…?」
その時、ふいに名前を呼ばれた。
せめて新幹線を見送って帰ろうと思っていた可那子の体が、びくりと震える。
「やっぱり、可那子ちゃん…」
もちろん品田だって、可那子のことはずっと心に留めていた。
しかし今の品田の中にあるのは、可那子を危険な目に遭わせたくない、という想いだけ。
だから品田は、愛想を尽かされるのを覚悟で何も話さず、逢うことすらしなかった。
「――…っ」
「待って!」
何も言わず踵を返した可那子を、品田が捕まえる。
「ごめんなさ、離して…、ごめ、なさい…」
掴まれた腕を振りほどくことができない可那子の瞳からは、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「ごめん…!」
それを見た瞬間痛いほどの可那子の想いを知った品田は、人目も憚らずその体を強く抱きしめた。
「ごめんね、今は俺行かないといけないんだ。でも帰ってくるから。帰ってきたら、全部話すから。赦してくれるならその時に…可那子ちゃんを全部、ちょうだい…?」
「品田、さ…」
涙で濡れた瞳で品田を見つめた可那子は、その後小さく頷いた。
「じゃ、約束」
ほっとしたようにやわらかく笑んだ品田は右手の小指を可那子のそれと絡め、
「行ってきます!」
そう言って、かけ出した。
***
「ただいま」
「お帰りなさい…」
すべてを終えて錦栄町に戻った品田は、自分の身に起こったこと、錦栄町、神室町で起こったことを可那子に話して聞かせた。
「可那子ちゃんを危険な目に遭わせたくなかった。だからどうしても言えなかった。不安にさせたよね、寂しい思いもたくさんさせたよね。本当にごめんね。赦してなんて、言えなくなっちゃったな…」
自嘲気味に笑う品田に、しかし可那子は静かに首を振ってみせた。
「赦すとか赦さないとかじゃないんです…、あなたは私のすべて、ですから…」
そう言って、可那子は儚く笑う。
そしてそのまま可那子は、品田の目の前で自ら服をはだけた。
「でも、約束は守りますから…、だからこれからも、そばにいさせてください…!」
「可那子ちゃ、ちょ…、」
焦った品田は、そのまま服を脱ぎ捨てようとする可那子を自分の目から隠すように抱きしめる。
「品田さん…?」
「ごめんね、本当は約束なんて何でもよくて…、ただ可那子ちゃんのこと引き止めておきたかったんだよ…」
戸惑いがちな可那子に、品田は自分の正直な想いを伝えた。
「ふられるの覚悟してたつもりだったのに、全然できてなくて。俺ほんとに可那子ちゃんのこと大好きで、大切なんだ」
そこまで言って品田は腕の力をゆるめ、可那子の顔を覗き込む。
「でもさ、そうは言っても…可那子ちゃんが欲しいのもすごく本音。だから…」
そう言って少し照れくさそうに笑った品田が可那子の頬に手を伸ばすと、可那子は潤んだ瞳を、静かに閉じた――。
約束したので
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