No.4
Name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
部員達を連れ、部屋へ向かう間の空気は心なしか重かった。
リナリアを制止しきれなかったひなは、申し訳なさそうな顔で視線を彷徨わせていた。だが気にかけてくれていただけでもありがたい。
ひなへ短くありがとうと伝え、ひとまずリビングにいる家族へ一声掛ける。母さんはぎょっとし、リナリアを気にしているようだったが、皆へは穏やかな笑顔を向けていた。
不安げな瞳で見上げてくるリナリアを先に促し、皆を連れて自室のある二階へ上がる。
何やら小さく言葉を交わしている部員もいたが、その会話は俺にはよく聞こえなかった。
部屋のドアを開け、皆に入ってと声を掛ける。俺の背中に隠れるようにくっついたリナリアが、くいっと服の裾を引いた。
「っせーいち………ごめん、なさい。
わたし…せーいちが、どこか…いっちゃったと、おもって…、」
見に行っちゃだめだったの…?と消え入りそうに切ない声が耳に届く。
その表情は俯いていて見えなかったが、俺の服を握る手と、細く華奢な肩が震えていた。
リナリアはただ、俺の姿が見えなくなってしばらく経つから、不安で見に来ただけだったのだ。
それが俺にとってはタイミングが悪かっただけで。リナリアには、耳としっぽのある姿がひとの目にどれだけ異質に映るかわからなかっただけで。
そんなリナリアを叱るようなことをできるはずがない。こうして皆に打ち明けるきっかけとして、きっとちょうど良かったのだ。
そう思い、俺はリナリアの頭を軽く撫でた。
「…大丈夫。
俺は、みんなを信じてるからね。」
俺の言葉に、俯いていた顔がゆっくりとこちらを向いた。見つめていると不安に揺れている瞳が俺の言葉を落とし込むように落ち着き、リナリアは薄く口元に弧を描く。
リナリアの表情が和らぐのを確かめ、部屋に入った皆へ向き直る。
荷物を下ろして楽にするように声を掛けると、それぞれ遠慮がちに腰を下ろした。
俺がベッドの端に腰かけると、リナリアは気後れしながらも付いてきて、俺の身体に隠れるようにして皆を不安と興味の混じったような瞳で見ていた。
「驚かせたね。……まずは、俺から話すよ。」
緊張に包まれた静かな空間の中、俺は慎重に口を開いた。
この女の子が、昨日見つけた子猫であること。朝起きたら姿が変わっていたこと──。
どこかで同じように話したかのような心地に、今朝の母さんへの説明を思い出し、内心笑ってしまう。
俺の言葉に、皆は信じられないような表情を浮かべた。
真田はこれ以上ないほどに眉を寄せていて、蓮二は真剣な様子で沈思黙考している。丸井やジャッカル、赤也は驚きのままに声を上げたが、それ以上の言葉は呑み込み、俺の続きの言葉を待っているようだった。
「──こういうことで、みんなに言わずにいようと思っていたのだけど…。
……正直に言うと、今日の部活でも…彼女のことが気になって集中できなかったんだ。
余計な心配を掛けてすまなかった。」
俺がそう白状すると、皆は腑に落ちたような表情になる。
いつもと違う様子が、思っていたような体調面でのことでなくてほっとしたようにも見えた。
だが皆の反応と裏腹に、俺の後ろからはっと息を呑み込む音が聞こえた。自分のせいで何かがあったのか、と考えてしまわないようリナリアに笑みを向ける。
そのまま、静かに言葉を続けた。
「……リナリアは、まだ人との関わりに慣れていない。不安になることもあると思う。
俺が支えるつもりだけど、俺ひとりでは足りないことがあるかもしれない。」
俺の話を聞きながら、仁王は窓際の壁に寄りかかったまま腕を組み直し、柳生は眼鏡のブリッジを押し上げた。
こんな非現実的な話を、すぐに飲み込める者はいないだろう。彼女を目の前にしていても、どこか夢ではないかと思ってしまう。
だが、子猫であったリナリアがこうして人の姿になり座っているのは現実で、俺はこの事実と向き合うしかないのだ。
そんな俺の状況を、皆に共有するつもりもなかった。
だが見られてしまったこと、そして今日の俺の様子やこれからを考えるに、事情を知っていて信頼できる仲間がいるに越したことはない。
「だから……そのときは、力を貸してほしい。
彼女が安心できる居場所を、作ってやりたいんだ。」
静かな空間に、俺の言葉は強く響いた。
皆の視線は俺とリナリアに集まり、誰もすぐには口を開かなかった。
俺のエゴではあるが、皆がこの状況を、理解してくれることを静かに願う。
「………幸村。お前のことだ、軽々と嘘は言わないだろう。
だが、到底信じられる現象ではない。」
「……ああ。俺もまだそう思ってるよ。
それでも、こうして実際に起きているから、リナリアはここにいる。」
「弦一郎。彼女の毛色やしぐさから考えるに、確かに昨日の猫で間違いない。」
真田の声は低く響き、リナリアはビクリと身体を跳ねさせた。
長年の付き合いから、その真田の様子は混乱しているのを落ち着けて考えようとしているのだとわかる。
しかし、ほぼ初対面であるリナリアは、真田の癖も人となりもわからない。
怯えたように小さく縮こまったリナリアは、蓮二の冷静な声にも責められているように感じたのだろうか、俺の服の裾を握った。
振り返ると、透き通った瞳が萎縮しているように揺れ、ふるふると唇が震えていた。そして消え入りそうに微かな声が耳に届く。
「………っご、め、…なさい。」
「ッちょ、謝らなくていいって!
オレらがちょっと驚いただけだからさ。」
「そうですよ。大丈夫、誰も貴方を責めてなどいません。」
「……真田、参謀。怯えとるぜよ。」
リナリアの振り絞るかのような声に、俺達はぎょっと目を見開いた。
咄嗟に声を上げた丸井、柳生。そして仁王の指摘に、真田は戸惑いに口ごもり、蓮二は眉を下げた。
蓮二は椅子から立ち上がるとゆっくりとこちらに歩み寄ってしゃがみ、リナリアと目線を合わせる。
「…すまない。言葉が冷たかったな。
ただ確認していただけだ。安心してくれ。」
その声は先ほどの静かな声とは違い、柔らかく響く。
真田は帽子を目深にかぶるようにつばを下げる仕草を見せたが、部屋に入ったときに帽子を取っていたため、不自然に握った手を居場所なく下ろした。
そのまま言葉を探すように口を開いたり閉じたりしたが、やっと掛けられた声は堅く、不器用だった。
「……声が強くなったが、お前を責めたわけではない。
幸村を信じているからこそ、状況を正しく見ておきたかったのだ。」
真田の不器用な言葉のあと、部屋には静かな間が流れた。
リナリアがどう受け取るかを見ていると、少し肩の力を抜き、つらく寄せられた眉根のしわが緩んだ。小さな吐息を漏らし、ようやく安心していいのだと理解したようだった。
柔らかい微笑みを向ける蓮二と、先ほどの強い口調を直した真田に、リナリアはふわりと笑いかける。
その笑顔に、他の皆もつられて口に弧を描く。部屋の空気が少し柔らかくなり、緊張の糸がほどけていくのがわかった。
「…っま、まぁ、事情はわかったよ。
俺達も力になる。」
「へへっ!こんなスゲーこと、漫画以外でも起きるんスね!」
ジャッカルは皆の表情を確認しながらしっかりと頷き、赤也はいつもの調子で笑っていた。
ひとまず皆が事情を理解してくれたことと、リナリアが皆に対して安心できたことにほっと胸を撫で下ろす。
皆に頼るような出来事が起きないに越したことはないが、それでも家族以外で相談できる人達ができたことは心強かった。
「みんな……ありがとう。」
「いやぁ、今日の幸村部長はホントどうしちゃったのかと思いましたけど、こんな大ピンチがあったんじゃ、しょーがないっスよね!」
「赤也、それはフォローになっとらん。」
あはははは、と笑う赤也に仁王が静かに声を掛け、丸井は肘で小突いた。
柳生が場を持ち直すように、体調が思わしくないわけでなくてよかったです、と微笑み、皆はその言葉に頷く。
退院こそしたものの、まだ本調子ではない現状で心配を掛けすぎてしまったと感じ、苦笑した。
ふと視線を向ければ、リナリアは皆の笑顔や雰囲気に当てられたようにふわりと柔らかい表情をしていた。
その姿に安堵すると同時に、胸の奥にじんわりとした温かさが広がる。
見られてしまったことがきっかけではあるが、この場を設けてよかったのだと、心から思えた。
リナリアを制止しきれなかったひなは、申し訳なさそうな顔で視線を彷徨わせていた。だが気にかけてくれていただけでもありがたい。
ひなへ短くありがとうと伝え、ひとまずリビングにいる家族へ一声掛ける。母さんはぎょっとし、リナリアを気にしているようだったが、皆へは穏やかな笑顔を向けていた。
不安げな瞳で見上げてくるリナリアを先に促し、皆を連れて自室のある二階へ上がる。
何やら小さく言葉を交わしている部員もいたが、その会話は俺にはよく聞こえなかった。
部屋のドアを開け、皆に入ってと声を掛ける。俺の背中に隠れるようにくっついたリナリアが、くいっと服の裾を引いた。
「っせーいち………ごめん、なさい。
わたし…せーいちが、どこか…いっちゃったと、おもって…、」
見に行っちゃだめだったの…?と消え入りそうに切ない声が耳に届く。
その表情は俯いていて見えなかったが、俺の服を握る手と、細く華奢な肩が震えていた。
リナリアはただ、俺の姿が見えなくなってしばらく経つから、不安で見に来ただけだったのだ。
それが俺にとってはタイミングが悪かっただけで。リナリアには、耳としっぽのある姿がひとの目にどれだけ異質に映るかわからなかっただけで。
そんなリナリアを叱るようなことをできるはずがない。こうして皆に打ち明けるきっかけとして、きっとちょうど良かったのだ。
そう思い、俺はリナリアの頭を軽く撫でた。
「…大丈夫。
俺は、みんなを信じてるからね。」
俺の言葉に、俯いていた顔がゆっくりとこちらを向いた。見つめていると不安に揺れている瞳が俺の言葉を落とし込むように落ち着き、リナリアは薄く口元に弧を描く。
リナリアの表情が和らぐのを確かめ、部屋に入った皆へ向き直る。
荷物を下ろして楽にするように声を掛けると、それぞれ遠慮がちに腰を下ろした。
俺がベッドの端に腰かけると、リナリアは気後れしながらも付いてきて、俺の身体に隠れるようにして皆を不安と興味の混じったような瞳で見ていた。
「驚かせたね。……まずは、俺から話すよ。」
緊張に包まれた静かな空間の中、俺は慎重に口を開いた。
この女の子が、昨日見つけた子猫であること。朝起きたら姿が変わっていたこと──。
どこかで同じように話したかのような心地に、今朝の母さんへの説明を思い出し、内心笑ってしまう。
俺の言葉に、皆は信じられないような表情を浮かべた。
真田はこれ以上ないほどに眉を寄せていて、蓮二は真剣な様子で沈思黙考している。丸井やジャッカル、赤也は驚きのままに声を上げたが、それ以上の言葉は呑み込み、俺の続きの言葉を待っているようだった。
「──こういうことで、みんなに言わずにいようと思っていたのだけど…。
……正直に言うと、今日の部活でも…彼女のことが気になって集中できなかったんだ。
余計な心配を掛けてすまなかった。」
俺がそう白状すると、皆は腑に落ちたような表情になる。
いつもと違う様子が、思っていたような体調面でのことでなくてほっとしたようにも見えた。
だが皆の反応と裏腹に、俺の後ろからはっと息を呑み込む音が聞こえた。自分のせいで何かがあったのか、と考えてしまわないようリナリアに笑みを向ける。
そのまま、静かに言葉を続けた。
「……リナリアは、まだ人との関わりに慣れていない。不安になることもあると思う。
俺が支えるつもりだけど、俺ひとりでは足りないことがあるかもしれない。」
俺の話を聞きながら、仁王は窓際の壁に寄りかかったまま腕を組み直し、柳生は眼鏡のブリッジを押し上げた。
こんな非現実的な話を、すぐに飲み込める者はいないだろう。彼女を目の前にしていても、どこか夢ではないかと思ってしまう。
だが、子猫であったリナリアがこうして人の姿になり座っているのは現実で、俺はこの事実と向き合うしかないのだ。
そんな俺の状況を、皆に共有するつもりもなかった。
だが見られてしまったこと、そして今日の俺の様子やこれからを考えるに、事情を知っていて信頼できる仲間がいるに越したことはない。
「だから……そのときは、力を貸してほしい。
彼女が安心できる居場所を、作ってやりたいんだ。」
静かな空間に、俺の言葉は強く響いた。
皆の視線は俺とリナリアに集まり、誰もすぐには口を開かなかった。
俺のエゴではあるが、皆がこの状況を、理解してくれることを静かに願う。
「………幸村。お前のことだ、軽々と嘘は言わないだろう。
だが、到底信じられる現象ではない。」
「……ああ。俺もまだそう思ってるよ。
それでも、こうして実際に起きているから、リナリアはここにいる。」
「弦一郎。彼女の毛色やしぐさから考えるに、確かに昨日の猫で間違いない。」
真田の声は低く響き、リナリアはビクリと身体を跳ねさせた。
長年の付き合いから、その真田の様子は混乱しているのを落ち着けて考えようとしているのだとわかる。
しかし、ほぼ初対面であるリナリアは、真田の癖も人となりもわからない。
怯えたように小さく縮こまったリナリアは、蓮二の冷静な声にも責められているように感じたのだろうか、俺の服の裾を握った。
振り返ると、透き通った瞳が萎縮しているように揺れ、ふるふると唇が震えていた。そして消え入りそうに微かな声が耳に届く。
「………っご、め、…なさい。」
「ッちょ、謝らなくていいって!
オレらがちょっと驚いただけだからさ。」
「そうですよ。大丈夫、誰も貴方を責めてなどいません。」
「……真田、参謀。怯えとるぜよ。」
リナリアの振り絞るかのような声に、俺達はぎょっと目を見開いた。
咄嗟に声を上げた丸井、柳生。そして仁王の指摘に、真田は戸惑いに口ごもり、蓮二は眉を下げた。
蓮二は椅子から立ち上がるとゆっくりとこちらに歩み寄ってしゃがみ、リナリアと目線を合わせる。
「…すまない。言葉が冷たかったな。
ただ確認していただけだ。安心してくれ。」
その声は先ほどの静かな声とは違い、柔らかく響く。
真田は帽子を目深にかぶるようにつばを下げる仕草を見せたが、部屋に入ったときに帽子を取っていたため、不自然に握った手を居場所なく下ろした。
そのまま言葉を探すように口を開いたり閉じたりしたが、やっと掛けられた声は堅く、不器用だった。
「……声が強くなったが、お前を責めたわけではない。
幸村を信じているからこそ、状況を正しく見ておきたかったのだ。」
真田の不器用な言葉のあと、部屋には静かな間が流れた。
リナリアがどう受け取るかを見ていると、少し肩の力を抜き、つらく寄せられた眉根のしわが緩んだ。小さな吐息を漏らし、ようやく安心していいのだと理解したようだった。
柔らかい微笑みを向ける蓮二と、先ほどの強い口調を直した真田に、リナリアはふわりと笑いかける。
その笑顔に、他の皆もつられて口に弧を描く。部屋の空気が少し柔らかくなり、緊張の糸がほどけていくのがわかった。
「…っま、まぁ、事情はわかったよ。
俺達も力になる。」
「へへっ!こんなスゲーこと、漫画以外でも起きるんスね!」
ジャッカルは皆の表情を確認しながらしっかりと頷き、赤也はいつもの調子で笑っていた。
ひとまず皆が事情を理解してくれたことと、リナリアが皆に対して安心できたことにほっと胸を撫で下ろす。
皆に頼るような出来事が起きないに越したことはないが、それでも家族以外で相談できる人達ができたことは心強かった。
「みんな……ありがとう。」
「いやぁ、今日の幸村部長はホントどうしちゃったのかと思いましたけど、こんな大ピンチがあったんじゃ、しょーがないっスよね!」
「赤也、それはフォローになっとらん。」
あはははは、と笑う赤也に仁王が静かに声を掛け、丸井は肘で小突いた。
柳生が場を持ち直すように、体調が思わしくないわけでなくてよかったです、と微笑み、皆はその言葉に頷く。
退院こそしたものの、まだ本調子ではない現状で心配を掛けすぎてしまったと感じ、苦笑した。
ふと視線を向ければ、リナリアは皆の笑顔や雰囲気に当てられたようにふわりと柔らかい表情をしていた。
その姿に安堵すると同時に、胸の奥にじんわりとした温かさが広がる。
見られてしまったことがきっかけではあるが、この場を設けてよかったのだと、心から思えた。
