No.2
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いつもと違う何となくの違和感に、俺は自然と眠りから覚めた。
ベッドが、そして身体が温かい──あぁ、そういえば子猫と一緒に寝たなぁと覚醒しきらないままぼんやりと考える。
落ち着いて眠れただろうか。キャットフードはまた食べてあるだろうか。安全であると、慣れていけそうだろうか。
スースーと聞こえてくる規則正しい寝息に、幼い頃に妹と眠ったときと同じ感覚で、懐かしいと感じてしまう。
ひとりで寝るより、ベッドが温かくて。自分ではない寝息を聞いて。身体に掛けられた腕の重みを心地よいと感じたりして…──腕の重み?
そこまでぼんやりと考えていた俺の思考は瞬間にはっきりとした。子猫とは違うであろうものが身体に巻きついている。
閉じていた目を開け、身体に掛かっている肌掛け布団を捲る。露わになったものに、また驚くことになった。
「っ、は?」
ふんわりとしたクリーム色の髪の女の子が、俺の身体に寄り添うように絡みつき眠っていた。顔を下に向けると鼻先が頭に触れてしまいそうだ。ふと、嗅いだことのあるシャンプーの香りを感じた。
驚きのあまり言葉を忘れたような感覚に陥った。そしてさらに驚くことに、女の子の頭にはチョコレート色の動物の耳が生えていた。
どこか見覚えのある耳のように思えたが、その記憶を辿るような余裕はない。
この女の子が、なぜ、俺のベッドにいるのか。
考えても理解できるはずもなさそうだが、考えないわけにはいかなかった。
起こさないように、ゆっくりと腰に巻き付かれた腕をのけようとする。
「っん…にゃ、」
「ちょっ…!」
腕が俺の身体からベッドに触れると、女の子は身を捩った。高く甘い声が聞こえたかと思うと、再度その腕が伸びてくる。
また腰に腕をまわされ、今度は先程以上にしっかりと力を込められてしまった。
思い切って振りほどこうと思えばできるだろうが、女の子にそんな手荒いことはしたくない。
どうしたものかと打開策を考えながら、状況を改めて理解しようとしていると、まるでうわ言のような小さな声が聞こえてきた。
「…ぃか、ないで…。」
その切ない声には聞き覚えがあった。鈴のような軽やかな声。夢で聞いた、あの心奪う魅力的な声のように思えた。
心臓がきゅっと縮まったような感覚に、今の今まで考えていたことは頭からすっかり消えてしまった。
"さみしいよ…"
"…ぃか、ないで…"
夢のあの声は、この子の声?あの夢はこの子のことで、子猫の鳴き声も、昨日の…──そうだ。昨日保護した子猫は?一体どこに。
この状況でまともに働いているとも思えない頭で必死に考えた。
女の子に絡みつかれたまま可能な限り部屋を見回したが、子猫の気配はない。それ以上に、目についたこの女の子の頭についた動物の耳が気になってしまった。
見覚えがあると思ったが、今姿がみえない子猫のものとあまりに似ていないか?
まさか、と自分で自分の考えを疑った。
──あり得ない。あり得るわけがない。
柔らかそうなチョコレート色の毛で覆われた耳。クリームのような優しい色合いの髪は毛先にかけてチョコレート色にグラデーションがかっている。
子猫の耳、そして体毛の色ともよく似ている。
それでも信じられなかった。こんなことがあるだろうか。この女の子が昨日の子猫かもしれないなんて。
さらに驚くことに女の子の耳は先程よりも伏せられているように思う。つらい声と重なる様子に、無意識に息を飲み込んだ。
俺はおもむろにその耳に手を伸ばした。これは、本物なのだろうか。
「…っ、」
細かく生えている毛は柔らかく、そして温かかった。触れた瞬間に大きくピクッと動き、俺の指を払うかのように小さく震える。
驚きに声が出なかった。
この耳は、本物だ。血が通い、その頭に生えている、本当の動物の耳だ。
到底信じられるものではないが、触れてしまったことでそれを疑う余地はなくなってしまった。
呆気にとられてそれ以上どうすることも出来ないでいると、タイミングを見計らったかのように起床のアラームが鳴り響いた。
慌てて女の子の耳から手を離しアラームを止める。アラームの音になのか俺の動きになのか、女の子がもぞりと動いた。俺に絡みついていた腕が離れ、その手で目元を擦る。
眠気のまじった甘い声で小さく唸り、ゆっくりと身体を起こした。着ているワンピースの裾がふわりと広がった。
ちょこんと座り込み小さなあくびをすると、とろんとした目が開かれる。
「…にゃ。」
吸い込まれそうな、透き通った淡いブルーの瞳が俺を真っ直ぐに見つめた。長いまつ毛に囲われたその瞳で、俺は現実を受け入れるしかなくなった。
あの瞳だ。子猫と同じ、とても綺麗な瞳。
その大きな瞳はぱちぱちと瞬きをした。俺はゆっくりと起き上がり、気付いたら誘われるように口を開いていた。
「君、は…、」
一体、なに ?
戸惑いのあまりに口から出そうになった言葉を、はっと飲み込んだ。その言葉はあまりにも冷たいように感じられたからだ。
それ以上に何も言えず、また、何から聞けばいいのか思案していると、女の子がはっと息を飲み込んだ。
どうしたのかと様子を見ると、ベッドに着いた手を凝視している。手のひらを自分に向け、握ったり開いたりを繰り返し、自分の身体をしげしげと見つめていた。
細く白い指がゆっくりとその顔に伸ばされる。くりっと丸く大きな目、なめらかな鼻筋、ぷくっと膨らんだ血色のいい唇を、その形を確かめるかのようにゆっくりとなぞっていた。
「っに、んげん、の、からだ…?」
鈴のような声が驚きに上ずっていた。
言葉にして確認するかのように呟いたかと思うと、整った可愛らしい顔に華のような笑顔が咲いた。
ぱあっと口元が綻び、ひとより尖った犬歯がその姿をのぞかせた。透き通った湖のような瞳が、きらきらと輝く。女の子の背中越しにぴんと立ったしっぽの先がゆらゆら揺れているのが見えた。
俺は、嬉しそうなその表情に胸が高鳴ったのを感じた。驚きのままに口を引き結んでいると、女の子は不意にこちらに手を伸ばした。
「ぅわッ…!」
「っわ、たし、あなたと…っおはなし、したかった!」
「っ、…?」
肩からするりと首に手を回されたと思ったらそのまま体重がかけられ、俺は女の子と一緒に後ろに倒れ込んでしまった。
幸いにもベッドの上のままであったので、俺も女の子もその身体を埋めただけだった。
少し舌っ足らずな言葉で、喜んだような様子に面食らってしまう。
俺と話しがしたかった?それは今まで話せない状況であったと証明している言葉だが、ちょうど昨晩眠りにつく前に思ったことが頭を掠めた。
"それでも触れるだけでなく、君と話しが出来て、…"
そうだ。俺も、確かにそう思っていた。
そう思ったことと、この状況は偶然か否か。だが、それを深く考えようにも手を回して抱きついている女の子が気になってしまった。
首元にすりっと頭を擦り寄せられ、その柔らかい髪が肌をくすぐる。身体が触れ合う感触にどきまぎした。
俺の身体の上にいるのに、思うほどの圧迫感はなくその身体はしなやかで軽い。収まってしまいそうに小さな身体に触れてしまわないように、俺は後ろ手を着いたまま平然を取り繕った。
「えっ、と…ちょっと、離れてくれないかな?」
「?」
努めて優しく声を掛けた俺を女の子はきょとんと見つめた。ひとまず言葉は理解してくれたようで、ゆっくりと身体を離す。
無意識に強ばらせていた身体の力が抜けるのを感じた。
再度向き合うと、この女の子は俺と変わらないくらいの年回りであると認識した。耳としっぽを除けば、容姿は人間と同じように見える。
「もしかしてだけど…君は、昨日の、猫?」
俺自身の言葉を確認するように口にすれば、女の子はその目を細めて微笑みしっかりと頷いた。
ほとんど確信に近いものはあったが、それが肯定されると何とも言えない心境になる。こんなことが、あり得るのだろうか。
だが目の前にあるものが真実だ。この女の子は、昨日保護した子猫なのだ。
「せーいち。わたしを、みつけた…あったかい、ひと、ね。」
「……っ、…い、いや…。
どうして、俺の名前を知っているんだい?」
「きのう、きいたよ。わたしは、リナリア。」
昨日聞いた、ということは母さんやおばあちゃんが呼んだのを覚えていたのだろう。
真っ直ぐ見つめてくるその瞳が、純粋でとても綺麗なもので、惹かれるように目が離せなかった。
リナリア。告げられた名前を、声には出さずに繰り返す。どこかで聞いたような気がしたが、小柄で可愛らしい彼女にぴったりな名前だと思った。
リナリアはふわりと柔らかい笑顔をうかべた。
ベッドが、そして身体が温かい──あぁ、そういえば子猫と一緒に寝たなぁと覚醒しきらないままぼんやりと考える。
落ち着いて眠れただろうか。キャットフードはまた食べてあるだろうか。安全であると、慣れていけそうだろうか。
スースーと聞こえてくる規則正しい寝息に、幼い頃に妹と眠ったときと同じ感覚で、懐かしいと感じてしまう。
ひとりで寝るより、ベッドが温かくて。自分ではない寝息を聞いて。身体に掛けられた腕の重みを心地よいと感じたりして…──腕の重み?
そこまでぼんやりと考えていた俺の思考は瞬間にはっきりとした。子猫とは違うであろうものが身体に巻きついている。
閉じていた目を開け、身体に掛かっている肌掛け布団を捲る。露わになったものに、また驚くことになった。
「っ、は?」
ふんわりとしたクリーム色の髪の女の子が、俺の身体に寄り添うように絡みつき眠っていた。顔を下に向けると鼻先が頭に触れてしまいそうだ。ふと、嗅いだことのあるシャンプーの香りを感じた。
驚きのあまり言葉を忘れたような感覚に陥った。そしてさらに驚くことに、女の子の頭にはチョコレート色の動物の耳が生えていた。
どこか見覚えのある耳のように思えたが、その記憶を辿るような余裕はない。
この女の子が、なぜ、俺のベッドにいるのか。
考えても理解できるはずもなさそうだが、考えないわけにはいかなかった。
起こさないように、ゆっくりと腰に巻き付かれた腕をのけようとする。
「っん…にゃ、」
「ちょっ…!」
腕が俺の身体からベッドに触れると、女の子は身を捩った。高く甘い声が聞こえたかと思うと、再度その腕が伸びてくる。
また腰に腕をまわされ、今度は先程以上にしっかりと力を込められてしまった。
思い切って振りほどこうと思えばできるだろうが、女の子にそんな手荒いことはしたくない。
どうしたものかと打開策を考えながら、状況を改めて理解しようとしていると、まるでうわ言のような小さな声が聞こえてきた。
「…ぃか、ないで…。」
その切ない声には聞き覚えがあった。鈴のような軽やかな声。夢で聞いた、あの心奪う魅力的な声のように思えた。
心臓がきゅっと縮まったような感覚に、今の今まで考えていたことは頭からすっかり消えてしまった。
"さみしいよ…"
"…ぃか、ないで…"
夢のあの声は、この子の声?あの夢はこの子のことで、子猫の鳴き声も、昨日の…──そうだ。昨日保護した子猫は?一体どこに。
この状況でまともに働いているとも思えない頭で必死に考えた。
女の子に絡みつかれたまま可能な限り部屋を見回したが、子猫の気配はない。それ以上に、目についたこの女の子の頭についた動物の耳が気になってしまった。
見覚えがあると思ったが、今姿がみえない子猫のものとあまりに似ていないか?
まさか、と自分で自分の考えを疑った。
──あり得ない。あり得るわけがない。
柔らかそうなチョコレート色の毛で覆われた耳。クリームのような優しい色合いの髪は毛先にかけてチョコレート色にグラデーションがかっている。
子猫の耳、そして体毛の色ともよく似ている。
それでも信じられなかった。こんなことがあるだろうか。この女の子が昨日の子猫かもしれないなんて。
さらに驚くことに女の子の耳は先程よりも伏せられているように思う。つらい声と重なる様子に、無意識に息を飲み込んだ。
俺はおもむろにその耳に手を伸ばした。これは、本物なのだろうか。
「…っ、」
細かく生えている毛は柔らかく、そして温かかった。触れた瞬間に大きくピクッと動き、俺の指を払うかのように小さく震える。
驚きに声が出なかった。
この耳は、本物だ。血が通い、その頭に生えている、本当の動物の耳だ。
到底信じられるものではないが、触れてしまったことでそれを疑う余地はなくなってしまった。
呆気にとられてそれ以上どうすることも出来ないでいると、タイミングを見計らったかのように起床のアラームが鳴り響いた。
慌てて女の子の耳から手を離しアラームを止める。アラームの音になのか俺の動きになのか、女の子がもぞりと動いた。俺に絡みついていた腕が離れ、その手で目元を擦る。
眠気のまじった甘い声で小さく唸り、ゆっくりと身体を起こした。着ているワンピースの裾がふわりと広がった。
ちょこんと座り込み小さなあくびをすると、とろんとした目が開かれる。
「…にゃ。」
吸い込まれそうな、透き通った淡いブルーの瞳が俺を真っ直ぐに見つめた。長いまつ毛に囲われたその瞳で、俺は現実を受け入れるしかなくなった。
あの瞳だ。子猫と同じ、とても綺麗な瞳。
その大きな瞳はぱちぱちと瞬きをした。俺はゆっくりと起き上がり、気付いたら誘われるように口を開いていた。
「君、は…、」
一体、
戸惑いのあまりに口から出そうになった言葉を、はっと飲み込んだ。その言葉はあまりにも冷たいように感じられたからだ。
それ以上に何も言えず、また、何から聞けばいいのか思案していると、女の子がはっと息を飲み込んだ。
どうしたのかと様子を見ると、ベッドに着いた手を凝視している。手のひらを自分に向け、握ったり開いたりを繰り返し、自分の身体をしげしげと見つめていた。
細く白い指がゆっくりとその顔に伸ばされる。くりっと丸く大きな目、なめらかな鼻筋、ぷくっと膨らんだ血色のいい唇を、その形を確かめるかのようにゆっくりとなぞっていた。
「っに、んげん、の、からだ…?」
鈴のような声が驚きに上ずっていた。
言葉にして確認するかのように呟いたかと思うと、整った可愛らしい顔に華のような笑顔が咲いた。
ぱあっと口元が綻び、ひとより尖った犬歯がその姿をのぞかせた。透き通った湖のような瞳が、きらきらと輝く。女の子の背中越しにぴんと立ったしっぽの先がゆらゆら揺れているのが見えた。
俺は、嬉しそうなその表情に胸が高鳴ったのを感じた。驚きのままに口を引き結んでいると、女の子は不意にこちらに手を伸ばした。
「ぅわッ…!」
「っわ、たし、あなたと…っおはなし、したかった!」
「っ、…?」
肩からするりと首に手を回されたと思ったらそのまま体重がかけられ、俺は女の子と一緒に後ろに倒れ込んでしまった。
幸いにもベッドの上のままであったので、俺も女の子もその身体を埋めただけだった。
少し舌っ足らずな言葉で、喜んだような様子に面食らってしまう。
俺と話しがしたかった?それは今まで話せない状況であったと証明している言葉だが、ちょうど昨晩眠りにつく前に思ったことが頭を掠めた。
"それでも触れるだけでなく、君と話しが出来て、…"
そうだ。俺も、確かにそう思っていた。
そう思ったことと、この状況は偶然か否か。だが、それを深く考えようにも手を回して抱きついている女の子が気になってしまった。
首元にすりっと頭を擦り寄せられ、その柔らかい髪が肌をくすぐる。身体が触れ合う感触にどきまぎした。
俺の身体の上にいるのに、思うほどの圧迫感はなくその身体はしなやかで軽い。収まってしまいそうに小さな身体に触れてしまわないように、俺は後ろ手を着いたまま平然を取り繕った。
「えっ、と…ちょっと、離れてくれないかな?」
「?」
努めて優しく声を掛けた俺を女の子はきょとんと見つめた。ひとまず言葉は理解してくれたようで、ゆっくりと身体を離す。
無意識に強ばらせていた身体の力が抜けるのを感じた。
再度向き合うと、この女の子は俺と変わらないくらいの年回りであると認識した。耳としっぽを除けば、容姿は人間と同じように見える。
「もしかしてだけど…君は、昨日の、猫?」
俺自身の言葉を確認するように口にすれば、女の子はその目を細めて微笑みしっかりと頷いた。
ほとんど確信に近いものはあったが、それが肯定されると何とも言えない心境になる。こんなことが、あり得るのだろうか。
だが目の前にあるものが真実だ。この女の子は、昨日保護した子猫なのだ。
「せーいち。わたしを、みつけた…あったかい、ひと、ね。」
「……っ、…い、いや…。
どうして、俺の名前を知っているんだい?」
「きのう、きいたよ。わたしは、リナリア。」
昨日聞いた、ということは母さんやおばあちゃんが呼んだのを覚えていたのだろう。
真っ直ぐ見つめてくるその瞳が、純粋でとても綺麗なもので、惹かれるように目が離せなかった。
リナリア。告げられた名前を、声には出さずに繰り返す。どこかで聞いたような気がしたが、小柄で可愛らしい彼女にぴったりな名前だと思った。
リナリアはふわりと柔らかい笑顔をうかべた。
