No.6
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それじゃあ、例えばどんな気持ちがあるのかはね、とひなが言いながら、指折り挙げていく。
喜び、悲しみ、怒り、驚き、恐れ、嫌悪、信頼、期待。
もっと細かいものとしては、苛立ち、後悔、不安、羞恥、感動──挙げていけばキリがないほどで、ひなもリナリアも空でくるりと目をまわす。
「ふふっ…すぐわからなくても、みんなと関わっていく中で、わかっていったらいいよ。」
「うんうん!そうだね!」
感情の多さに溺れているように見え、何とも微笑ましい。俺が笑いながらそう言うと、ひなは調子よく大きく首を縦に振り、リナリアもつられたように首を動かした。
リナリアの表情が柔らかくなり、ふっと肩の力が抜ける。
そうすると、今まで意識に入っていなかった匂いがふわりと漂ってきた。やさしい出汁の香りが、母さんのいるキッチンから温かい湯気とともに舞い上がっている。
時計を仰ぎ見れば、もう正午に差し掛かっていた。
同じように、用意される昼食に気付いたひなが、おうどんー?と明るくキッチンに駆け寄っていく。
向こうに行きましょう、と声を掛けてソファーから立ち上がるおばあちゃんを見届けて振り返ると、先程のどこか寂しさを思わせる表情でリナリアは絵本の表紙を見つめていた。
俺はゆっくりと立ち上がるが、リナリアは気付かない。
その姿に小さく苦笑し、驚かせないようにそっと声を掛ける。
「…リナリア。行こう。」
「!…うんっ。」
手を差し出せば、目を丸くして顔を上げたリナリアは表情を緩める。きゅっと手を取ると、一緒にダイニングテーブルへ向かった。
リナリアを先に椅子に座らせ、キッチンへ行きどんぶりに盛られたうどんをいくつか運ぶ。箸を三膳とフォークを一本持ち、テーブルに用意した。
その姿を、リナリアはきょろきょろと目で追っていた。
湯気の立つうどん、いなり寿司、冷や奴、昨晩のかぼちゃの煮物、麦茶の入ったグラス。
全てを運び終わると、皆でテーブルにつく。
いただきます、と挨拶をし、うどんに手をつけた。甘いだしのなかにやさしい鰹の香りが広がり、さほど自覚はなかったが、急にお腹が空いていることに気付く。
リナリアは取り皿のお椀にあるうどんを、フォークで刺そうとしていた。しかし、うどんはつるんと逃げて、なかなか刺せない。
視界の隅で、リナリアのしっぽがぱたぱたと揺れているのが見える。
「…先と先の間に、引っ掛けたら、どうかな。」
見かねて声を掛け、フォークとお椀を手に、うどんを掬うように拾い上げた。もちろん、滑り落ちないように、うどんの端は避けて。
これでどうかな、とうどんを持ち上げたところで、リナリアがぱくりと口に含んだ。
思いもよらず、まるであーん、としているような状況に、目を瞬いてしまう。
リナリアは口に入った分のうどんを咀嚼し飲み込むと、無邪気にふわりと笑った。
「えへ…おいしい。」
「っ、…よかった。
じゃあ、今度は自分で、やってごらん。」
驚きに調子が戻らず、言葉に詰まりながら、リナリアへお椀とフォークを渡す。
リナリアはにこにこと受け取り、ゆっくりうどんを食べていった。お椀の中のうどんがなくなると、どんぶりに残っているうどんに手をつける。
まだ微かに湯気が出ているなか、リナリアが掬ったうどんに口をつけると、ビクリと身体を震わせてうどんを離してしまっていた。
まだ、リナリアにとっては、熱かったのだろう。
「……にゃ…。」
「ふふっ、取ろうか。」
耳を下げ、困った、とでも言うような声に、思わず笑ってしまった。
リナリアに声を掛け、お椀を受け取り、どんぶりからお椀にうどんを移していく。移しきるとリナリアはお椀を嬉しそうに受け取り、また慎重に食べ始める。
ひなが、熱かったらふーってするといいよ、と声を掛け、リナリアは頷いていた。
皆の食べる姿を見て啜ることも覚えたようで、ゆっくりと、ちゅるりとうどんを口に吸い込んでいた。そんなあどけない姿に気付けば緩んでいた。視線を上げると、家族が微笑ましそうにこちらを見ていたことに気付いた。
食事が終わり、食器も運び、ダイニングテーブルでテレビを見ながらゆったりと過ごしていると、ふと気付いた。
リナリアが、少し視線が下がり気味で耳も少し伏せており、何かを考えているようだが元気がない。
絵本を読んだ後からこの姿が見られる。何か、引っかかることがあるのだろうか。
そう思っていると、少し開けてある窓からすうっと風が入り頬を撫でたのを感じ、俺は口を開いていた。
「……リナリア。少し、散歩に行こうか。」
自分でも驚く程に優しい声でリナリアに提案をしていた。
どこか元気のないリナリアも、外に出て風に当たれば、少しでも気分を変えられるかもしれない。
リナリアははっとしたように目を開き、俺を驚きに見つめる。
「…いい、の?」
「いくつか、守ってほしいことはあるけどね。
耳としっぽを、見えないように隠すこと。あと、俺から離れないこと。
……どうかな?」
俺の言葉に、リナリアはぱあっと表情を輝かせた。
母さんとおばあちゃんに視線を向ければ、肯定するような微笑みと頷きが返ってくる。
嬉しそうに頷いたリナリアに、母さんがちょっと待っててねと声を掛けて二階に上がっていった。少しすると母さんは麦わら帽子を持って戻ってきた。
前のつばが広く、細めの飾りリボンと相まってすっきりとした印象のものだ。あご紐も付いていて、風が吹いても煽られる心配がない。
母さんはリナリアに、ちょっと居心地が悪いだろうけどごめんね、と言って帽子をかぶせる。
昨日みたいにしっぽは中にしまってね、と付け加えると、リナリアは母さんの言葉の通りにスカートの中にしっぽをしまった。
リナリアの身支度を母さんが整えてくれてる間に、俺も外へ出る支度をする。部屋へ戻り、部屋着からシャツへ着替える。長袖だが、風通しがいいものを選んだ。
着替えてリビングへ降りると、リナリアはカーディガンを羽織り、すっかりと"普通"の女の子に変わっていた。
ただ、澄んだ瞳の輝きは変わらない。無意識に目を奪われていた俺に、リナリアは笑いかける。
「せーいちと、おさんぽ、うれしいっ。」
その言葉にすら、胸が深く鼓動を打ったのを感じた。だが、その感覚を、リナリアが嬉しそうに笑うからだと理由付ける。
先程のもの悲しい表情ではなく、笑っているからだと──。
リナリアを連れて玄関へ行き、昨日買ってあった靴をおろす。歩きやすそうなスニーカーだが、リナリアは初めて履くものなので、無理をしないようにしなければ。
リナリアに玄関かまちに座ってもらい、正面でしゃがんで紐を調節する。
窮屈に感じないように少し緩めにして、もし歩いていて違和感があればすぐ伝えるようにリナリアに伝える。
「それじゃあ、行ってくるよ。」
「ええ。精市、リナリアちゃん、行ってらっしゃい。」
「気をつけてね!」
「いって、きます…!」
皆に見送られ、玄関から外へ足を踏み出した。
喜び、悲しみ、怒り、驚き、恐れ、嫌悪、信頼、期待。
もっと細かいものとしては、苛立ち、後悔、不安、羞恥、感動──挙げていけばキリがないほどで、ひなもリナリアも空でくるりと目をまわす。
「ふふっ…すぐわからなくても、みんなと関わっていく中で、わかっていったらいいよ。」
「うんうん!そうだね!」
感情の多さに溺れているように見え、何とも微笑ましい。俺が笑いながらそう言うと、ひなは調子よく大きく首を縦に振り、リナリアもつられたように首を動かした。
リナリアの表情が柔らかくなり、ふっと肩の力が抜ける。
そうすると、今まで意識に入っていなかった匂いがふわりと漂ってきた。やさしい出汁の香りが、母さんのいるキッチンから温かい湯気とともに舞い上がっている。
時計を仰ぎ見れば、もう正午に差し掛かっていた。
同じように、用意される昼食に気付いたひなが、おうどんー?と明るくキッチンに駆け寄っていく。
向こうに行きましょう、と声を掛けてソファーから立ち上がるおばあちゃんを見届けて振り返ると、先程のどこか寂しさを思わせる表情でリナリアは絵本の表紙を見つめていた。
俺はゆっくりと立ち上がるが、リナリアは気付かない。
その姿に小さく苦笑し、驚かせないようにそっと声を掛ける。
「…リナリア。行こう。」
「!…うんっ。」
手を差し出せば、目を丸くして顔を上げたリナリアは表情を緩める。きゅっと手を取ると、一緒にダイニングテーブルへ向かった。
リナリアを先に椅子に座らせ、キッチンへ行きどんぶりに盛られたうどんをいくつか運ぶ。箸を三膳とフォークを一本持ち、テーブルに用意した。
その姿を、リナリアはきょろきょろと目で追っていた。
湯気の立つうどん、いなり寿司、冷や奴、昨晩のかぼちゃの煮物、麦茶の入ったグラス。
全てを運び終わると、皆でテーブルにつく。
いただきます、と挨拶をし、うどんに手をつけた。甘いだしのなかにやさしい鰹の香りが広がり、さほど自覚はなかったが、急にお腹が空いていることに気付く。
リナリアは取り皿のお椀にあるうどんを、フォークで刺そうとしていた。しかし、うどんはつるんと逃げて、なかなか刺せない。
視界の隅で、リナリアのしっぽがぱたぱたと揺れているのが見える。
「…先と先の間に、引っ掛けたら、どうかな。」
見かねて声を掛け、フォークとお椀を手に、うどんを掬うように拾い上げた。もちろん、滑り落ちないように、うどんの端は避けて。
これでどうかな、とうどんを持ち上げたところで、リナリアがぱくりと口に含んだ。
思いもよらず、まるであーん、としているような状況に、目を瞬いてしまう。
リナリアは口に入った分のうどんを咀嚼し飲み込むと、無邪気にふわりと笑った。
「えへ…おいしい。」
「っ、…よかった。
じゃあ、今度は自分で、やってごらん。」
驚きに調子が戻らず、言葉に詰まりながら、リナリアへお椀とフォークを渡す。
リナリアはにこにこと受け取り、ゆっくりうどんを食べていった。お椀の中のうどんがなくなると、どんぶりに残っているうどんに手をつける。
まだ微かに湯気が出ているなか、リナリアが掬ったうどんに口をつけると、ビクリと身体を震わせてうどんを離してしまっていた。
まだ、リナリアにとっては、熱かったのだろう。
「……にゃ…。」
「ふふっ、取ろうか。」
耳を下げ、困った、とでも言うような声に、思わず笑ってしまった。
リナリアに声を掛け、お椀を受け取り、どんぶりからお椀にうどんを移していく。移しきるとリナリアはお椀を嬉しそうに受け取り、また慎重に食べ始める。
ひなが、熱かったらふーってするといいよ、と声を掛け、リナリアは頷いていた。
皆の食べる姿を見て啜ることも覚えたようで、ゆっくりと、ちゅるりとうどんを口に吸い込んでいた。そんなあどけない姿に気付けば緩んでいた。視線を上げると、家族が微笑ましそうにこちらを見ていたことに気付いた。
食事が終わり、食器も運び、ダイニングテーブルでテレビを見ながらゆったりと過ごしていると、ふと気付いた。
リナリアが、少し視線が下がり気味で耳も少し伏せており、何かを考えているようだが元気がない。
絵本を読んだ後からこの姿が見られる。何か、引っかかることがあるのだろうか。
そう思っていると、少し開けてある窓からすうっと風が入り頬を撫でたのを感じ、俺は口を開いていた。
「……リナリア。少し、散歩に行こうか。」
自分でも驚く程に優しい声でリナリアに提案をしていた。
どこか元気のないリナリアも、外に出て風に当たれば、少しでも気分を変えられるかもしれない。
リナリアははっとしたように目を開き、俺を驚きに見つめる。
「…いい、の?」
「いくつか、守ってほしいことはあるけどね。
耳としっぽを、見えないように隠すこと。あと、俺から離れないこと。
……どうかな?」
俺の言葉に、リナリアはぱあっと表情を輝かせた。
母さんとおばあちゃんに視線を向ければ、肯定するような微笑みと頷きが返ってくる。
嬉しそうに頷いたリナリアに、母さんがちょっと待っててねと声を掛けて二階に上がっていった。少しすると母さんは麦わら帽子を持って戻ってきた。
前のつばが広く、細めの飾りリボンと相まってすっきりとした印象のものだ。あご紐も付いていて、風が吹いても煽られる心配がない。
母さんはリナリアに、ちょっと居心地が悪いだろうけどごめんね、と言って帽子をかぶせる。
昨日みたいにしっぽは中にしまってね、と付け加えると、リナリアは母さんの言葉の通りにスカートの中にしっぽをしまった。
リナリアの身支度を母さんが整えてくれてる間に、俺も外へ出る支度をする。部屋へ戻り、部屋着からシャツへ着替える。長袖だが、風通しがいいものを選んだ。
着替えてリビングへ降りると、リナリアはカーディガンを羽織り、すっかりと"普通"の女の子に変わっていた。
ただ、澄んだ瞳の輝きは変わらない。無意識に目を奪われていた俺に、リナリアは笑いかける。
「せーいちと、おさんぽ、うれしいっ。」
その言葉にすら、胸が深く鼓動を打ったのを感じた。だが、その感覚を、リナリアが嬉しそうに笑うからだと理由付ける。
先程のもの悲しい表情ではなく、笑っているからだと──。
リナリアを連れて玄関へ行き、昨日買ってあった靴をおろす。歩きやすそうなスニーカーだが、リナリアは初めて履くものなので、無理をしないようにしなければ。
リナリアに玄関かまちに座ってもらい、正面でしゃがんで紐を調節する。
窮屈に感じないように少し緩めにして、もし歩いていて違和感があればすぐ伝えるようにリナリアに伝える。
「それじゃあ、行ってくるよ。」
「ええ。精市、リナリアちゃん、行ってらっしゃい。」
「気をつけてね!」
「いって、きます…!」
皆に見送られ、玄関から外へ足を踏み出した。
