はやとちり?

鈴鳴第一のバレンタインは、パーティーのようになる。今先輩がチョコケーキを焼いてくれて、鋼さんが料理を作ってくれ、来馬先輩はとても高級な美味しい紅茶を用意してくれる。そしておれは部屋の飾り付けと、ちょっとしたしょっぱいお菓子を用意する。
おれだけなんだかしょぼいなあと呟いたら、「太一の飾り付けは凝っていてテンションが上がるわ」と今先輩に言われておれのテンションも上がった。

バレンタイン当日、やっぱりケーキも料理も紅茶も美味しくて、飾り付けも褒めてもらえて非常に楽しいパーティーになった。明日半崎たちに自慢しよう、なんてことを考えながら支部の廊下を歩いていると、どこからか、来馬先輩と鋼さんの声が聞こえてきた。
なんとなく声を潜めている気がしたのでおれもこそっとのぞくと、鋼さんが来馬先輩にチョコをあげていた。「オレから貰っても気持ち悪いかもしれないですが……」と言った後、「その……日頃の感謝の気持ちです」と付け加えた鋼さんだったけど、顔が真っ赤だったのでおれでも嘘だとわかった。
日頃からなんとなく、鋼さんの来馬先輩を見る目はおれたちと違うなあとは思っていたのだ。でも、気のせいかな、とか、鋼さんは真面目だからな、で流してしまっていた。そのちょっとした違和感の正体がわかってしまった。
うわあうわあ見ちゃいけないものを見ちゃった!という罪悪感と、どうなるんだろうという好奇心が同時に湧き上がる。
すると、先輩はすっと手を伸ばして鋼さんのチョコを手に取った。そして
「気持ち悪いなんて思わないよ。ありがとう、嬉しい」
と、見たこともない柔らかい笑顔で笑った。
来馬先輩はいつも穏やかだけど、あんな顔見たことなかった。おれはまた、うわあ、と心の中で叫ぶ。
あんな顔、ただの後輩にもらっただけじゃするはずない。
「手作りなんだね、食べるの楽しみ。本当に嬉しいな」「いえ、そんな……でも喜んでもらえて良かったです」なんてやりとりしているふたりを尻目に、おれはもうこんなのふたりは両思いじゃん!とハッピーな気持ちになっていた。
おれは自分の顔が熱くなるのを感じながら、気づかれないようにそっと自分の部屋に戻った。

でも、その後特にふたりの距離感は変わらなくて、混乱したおれはしばらくソワソワして怪しまれるのだった。
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