迎えに来たよ

 突如、ボーダーで隊毎に長期休暇が与えられることになった。働きすぎな隊員への配慮らしい。ボーダーも規模が大きくなったので、そういう制度が必要になったのかもしれない。その通達が来た日、ぼくは隊員たちに簡単な予定を聞き、ゆっくり休もうね、と和やかに会話を終えた。
 その時の鋼は、たしか、普段通り過ごします、という真面目な鋼らしい回答だったはずだ。
 なのに——

「鋼さん、地元にいるらしいっす!」

 朝起きたら鋼がどこにもいなかった。それだけならランニングとも考えられたが、昼近くになっても帰ってこない。ぼくたちは心配になってそれぞれメッセージを送ったけれど、返ってきたのは太一に対してだけだった。
 どうして、ぼくじゃないの。と思うのは驕りだろうか。
 長期休暇中だれど、ぼくは隊長なのに。いや、そんなことは関係なく、鋼がぼくのメッセージを無視したことなど一度もなかったのに。
 鋼が誰にも言わず地元に帰っていることよりも、返事がないことに落ち込んでいる自分に気づき、はっとなる。そんな場合じゃない。

「確かに……長期休暇中は帰省も認められているけど、鋼はそんなこと言ってなかったよね?」

 2人に確認を取ると、はい、と返ってくる。やはり誰にも言わないで行ったのだ。鋼らしくない。
一瞬身内に何かあったのかとも疑ったが、それなら鋼はちゃんと伝えてくれるだろう。
——つまり、ぼくには言いたくなかったってことか——

「とりあえず、鋼の安否がわかってよかったよ。太一ありがとう」
「いえ!でも珍しいすね、来馬先輩にも言わないなんて、喧嘩でもしましたか?そんなわけないかー」
「こら、太一!」
「はは、喧嘩はしてないよ」

 むしろ、喧嘩などの理由があった方が良かった。
 ここ数日の鋼を思い返してみても、落ち着いているように見えた。落ち込んでるようにも、思い悩んでるようにも見えなかった。
 だけど、鋼は地元へ帰ってしまった。
 休暇が終われば帰ってくるはずなのに、ぼくはなんだか無性に焦燥感に駆られていた。

「来馬先輩、大丈夫ですか?」
「うん?大丈夫だよ」

 本当は全然大丈夫じゃなかったし、多分今ちゃんにはバレていたけれど、ぼくは笑顔で返した。
 そうして、鋼を迎えに行かなきゃ。ぼくはそんなおかしなことをなぜか至極真面目に考えていた。

つづく
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