本当だよ

 個人ランク戦10本勝負終了後、ブースから出て村上と米屋は2人並んでベンチに座っていた。村上は購入したコーヒーに口をつけ、米屋は天を仰ぐ。

「はあーやっぱ勝てねー」
「ん、でも今日は結構危なかった」
「そりゃあ、俺も対策しましたもん」

 でもやっぱ対応されちゃったかあ、と独り言に近い悔しさをこぼしたあと、米屋は反対に明るい声をだした。

「今度またやりましょうね!」
「ああ」

 その反応を見て、思わず村上は小さく笑った。ころころ変わる声色は自隊の後輩を思い出させて、微笑ましい。そして向けられた言葉は、村上を明るい気持ちにしてくれる。
 米屋は気配で村上が笑ったのを感じたのか、不思議そうな顔をした。

「どうしたんすか?」
「いや、ありがたいなって」
「?」
「米屋の明るさが、オレは好きだなって」
「!?」

 村上は正直な自分の気持ちを伝えたが、米屋を驚かせてしまったようだ。珍しく目を見開いて固まっている。

「……鋼さんってときどきわかんねー」
「ははっ、でも本当だよ」

 自分のやり方で強くなることに迷いは無くなった。無くなった、と思うけれど、それでもやはり自分のやり方に合わせてもらい個人戦をするのは申し訳なさも残っていた。休憩の分、時間もかかる。
 けれど米屋は、5本の後の休憩を前提に村上と戦ってくれる。今日は対応させないすから!とカラッと笑うのだ。それに救われているんだ、と村上は心の中で米屋に向かって言う。直接言ってもいいが、なんとなくそれは逆に米屋に気を遣わせてしまうような気がした。

「米屋、何飲む?」
「え、」
「お礼に奢る」

 え、お礼?なんの?と混乱しつつも、じゃあスポドリで!と笑う米屋を見て、村上はその屈託のなさに目を細めた。
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