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妙義山の山頂パーキング。
自動販売機のうなる音だけが響く、真冬の深夜。
漆黒のR32のボンネットに腰掛けて、中里毅は缶コーヒーを煽っていた。
「寒くねぇか」
「平気です。中里さんのジャケット、借りてますから」
なまえは、彼から貸されたぶかぶかの黒いジャケットの前をぎゅっと合わせた。
生地から漂う、微かな煙草とコロンの混じった香り。
それに包まれているだけで、胸が苦しくなる。
(…もう、限界だよ)
休日に会うし、毎日連絡も取る。
周りからは「付き合ってるんでしょ?」と聞かれるけれど、彼は決して決定的な言葉を口にしない。
ただの「走り屋仲間」のひとりなのか。
それとも、少しは特別に想ってくれているのか。
この曖昧な関係を、今日はどうしても壊したかった。
「中里さん」
「ん?」
なまえは助手席に置いていたトートバッグから紙袋を取り出し、彼の目の前に突き出した。
「これ。…受け取ってください」
中里は少し驚いたように目を見開き、それから困ったように眉を下げた。
「…サンキュ。義理チョコなんて、気ぃ使わせたな」
…まただ。
彼はいつもそうやって、自分への好意を「気のせい」や「社交辞令」にして壁を作る。
自分が走り屋で、女性を幸せにできるはずがないと決めつけているみたいに。
なまえはきゅっと唇を噛んだあと、震える声で告げた。
「義理じゃ、ありません」
「…え?」
「友だちとして渡したんじゃないです。…わたしは、中里さんのことが好きだから」
冷たい風が吹き抜ける中、なまえの言葉だけが熱を持ってその場に留まる。
「中里さんの隣にいるのは、わたしがいいです。他の誰かじゃ、嫌なんです」
真っ直ぐな瞳で見つめられ、中里は空になった缶コーヒーを持ったまま固まっていた。
長い沈黙。
心臓が破裂しそうになった時、中里がふぅ…、と長く息を吐いた。
「…敵わねぇな」
彼は握りしめていた缶をゴミ箱に投げ入れ、ゆっくりとなまえに向き直った。
「俺は不器用だし、車のことしか頭にねぇつまんない男だぞ」
「そんなこと…!」
「でも」
中里の大きな手が、なまえの肩を掴んだ。
「お前に他の男が寄ってくるのを想像すると、腹が立って仕方ねぇんだよな」
「中里さん…」
「だから、もうごまかさねぇ。…俺も、お前が好きだ」
なまえの身体が引き寄せられ、彼の厚い胸板に押し付けられる。
力強い鼓動が、なまえの鼓動と重なった。
「俺の女になれ、なまえ」
ぶっきらぼうだけど、これ以上ないほど確かな告白。
(やっと…届いた)
なまえは瞳に涙を滲ませながら、彼の背中に腕を回した。
「…はいっ!」
見上げると、今まで見たこともないくらい優しい顔で、中里が笑っていた。
ふたりの関係にかけられていた重たいサイドブレーキは、今夜、完全に解除されたのだった。
(おわり)
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