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重たいシャッターが、外界の喧騒を完全に遮断している。
12月24日。
世の中はきらびやかなイルミネーションと恋人たちの笑顔で溢れているはずだ。
けれど、このガレージにあるのは、冷え切ったコンクリートの床と、鼻をつくオイルの匂い。
そして、愛車R32と向き合う中里毅の、張り詰めた背中だけだった。
「…なまえ、12のスパナ」
「はいっ」
整備士を目指して勉強中のなまえにとって、彼の手伝いができるこの場所は、どんな高級レストランよりも特別な教室だ。
かじかむ指先を温める暇もなく、ふたりで黙々と作業を続ける。
時計の針は、とうに日付変更線を越えようとしていた。
ようやくひと区切りがついた頃、中里がふぅ、と深く息を吐き、無造作にウエスで手を拭った。
「悪かったな。こんな日まで付き合わせて」
低い声が、静かなガレージに響く。
クリスマスの「ク」の字も興味がなさそうな彼は、今日が何の日かなんて気にも留めていないと思っていた。
「ううん、勉強になりますから。…それに、中里さんと一緒なら、どこでも楽しいです」
なまえが作業着の汚れを払いながら笑うと、中里はバツが悪そうに視線を泳がせた。
そして、足元に置いてあった無骨なツールボックスを、どすん、となまえの前に置く。
「…え?」
「やるよ」
「これって…」
中里は無言で顎をしゃくり、開けてみろと合図する。
恐る恐る留め具を外すと、中には鈍い光を放つ新品の工具セットが整然と並んでいた。
しかも、どれもがなまえの小さな手にも馴染むように選ばれた、こだわりの品々だ。
「これから整備士やるなら、道具には妥協すんな。…お前専用だ」
ぶっきらぼうな言葉。
けれどそれは、なまえの夢を誰よりも真剣に応援してくれている証だった。
指輪でも、花束でもない。
冷たくて重たい鉄の塊。
なのに、どうしてこんなに胸が熱くなるんだろう。
「中里さん…」
なまえの瞳が潤むのを見て、中里は居心地悪そうに鼻をこする。
「…そんな顔すんな。似合わねぇぞ」
そう言いながらも彼の手はなまえの頭に伸びてきて、驚くほど優しく髪を撫でた。
「お前は、いい整備士になる」
その一言は、どんな甘い愛の言葉よりも、なまえの心を震わせる。
「…ありがとうございます。一生、大切にします」
「…ああ」
中里の唇が、不器用に重なる。
オイルとガソリンの匂いが混じるキスは、少ししょっぱくて、とびきり温かかった。
華やかさとは無縁の、作業着姿のクリスマス。
けれど、ふたりにとっては、これ以上ないほど確かな愛の形がそこにあった。
(おわり)
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