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高橋邸の広い廊下。
深夜、屋敷が静まり返った頃、なまえは足音を忍ばせて一番奥の部屋――啓介の自室のドアをノックした。
「…啓介さん、なまえです」
「ああ。開いてる」
中から聞こえた短い返事に、なまえはホッと胸を撫で下ろしてドアノブを回した。
この屋敷で住み込みのメイドとして働き始めて数年。
「使用人」と「次男様」という立場を超えてふたりが恋人同士になったことは、厳格な父親にも、勘の鋭い涼介にさえも秘密だ。
重厚なドアを閉め、鍵をかけた瞬間、そこはふたりだけの密室になる。
「遅かったな。待ちくたびれたぜ」
ベッドの端に腰掛けた啓介が、不機嫌そうに、けれど熱っぽい瞳でなまえを見上げている。
「すみません、タイミングを見てたらこんな時間に…」
なまえは手に持っていた赤いリボンのかかった小箱を、少し緊張しながら差し出した。
「これ…バレンタインのチョコです。厨房の片付けの合間に、こっそり作りました」
「…へぇ」
啓介は口角を上げると、その箱を受け取るのではなく、なまえの手首をぐいと引いた。
「きゃ…っ!」
バランスを崩したなまえの身体が、啓介の逞しい腕の中へとすっぽり収まる。
彼の膝の上に抱き上げられる形になり、顔が至近距離で向かい合った。
「仕事は終わりだろ?ここからは、オレの時間だ」
「け、啓介さん、チョコ…潰れちゃいます」
「あとで食う。…今はこっちが先だ」
小箱をサイドテーブルに避難させるのと同時に、啓介の唇はなまえのそれを塞いでいた。
「ん…っ、」
いつもの、廊下の陰でするような触れるだけのキスとは違う。
深く、貪るような口づけ。
舌先が絡み合い、なまえの身体から力が抜けていくのを啓介の腕が力強く支えている。
「はぁ…っ、啓介、さん…」
何度も角度を変えて唇を重ねられ、頭の中が真っ白になっていく。
「使用人」としての理性なんて、彼の熱の前では簡単に溶けてしまう。
ようやく唇が離れた時、なまえは肩で息をしながら、潤んだ瞳で彼を見つめることしかできなかった。
啓介は満足そうに目を細め、親指でなまえの濡れた唇をなぞる。
「…甘ぇな」
当然それは、チョコレートのことではない。
「お前が作ったチョコなら、絶対美味いに決まってる。…けど」
啓介はなまえの首筋に顔を埋め、低い声で囁く。
その吐息が肌にかかり、ぞくりとした甘い痺れが背筋を駆け抜けた。
「今のオレは、チョコなんかじゃ満足できねーよ」
「…っ、」
「オレのこと、好きか?」
わざとらしく耳元で問われる。
そんなの、答えなんて決まっているのに。
普段は「啓介様」と呼ぶこの唇で、愛を紡ぐことを彼は求めている。
「…はい、大好きです。世界で一番」
なまえが答えると、啓介は喉の奥で低く笑い、なまえを抱きしめる腕の力を強めた。
雇い主の息子と使用人という壁など、この腕の中には存在しない。
「オレもだ。…もう、離してやる気はねーから覚悟しろよ」
耳元で落とされる、甘い独占宣言。
「今日は朝まで、オレだけのモンだ」
再び重なる唇は、どんな高級なチョコレートよりも甘く、なまえの心も体もとろとろに溶かしていった。
(おわり)
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