ターボ・シンパシー
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群馬・秋名。
夕暮れの藤原豆腐店のガレージでは、ハチロクのボンネットが開けられ、藤原文太がプラグを覗き込んでいた。
タバコをくわえたまま、ぶつぶつと独り言。
「…こりゃそろそろ交換時期か。拓海のやつ、ちゃんとメンテしやがれってんだ」
そのとき──
エンジン音を響かせて、白のS13が勢いよくガレージ前に滑り込む。
ドアが開き、元気な少女が飛び降りた。
「文太おじさーん!やっほー!今日も元気〜!?」
「おお、なまえか」
タバコをくわえたまま振り向いた文太が、ふっと煙を吐き出す。
「相変わらず騒がしいな。お前…S13のマフラー、またいじっただろ?音がでかすぎんだよ」
「えへへ〜いい音でしょ?低音バッチリで、走ってるだけで心に響くの!」
自信満々にS13を指さすなまえに、文太は肩をすくめて苦笑する。
「ふん、まあ…悪くはねえがな」
すると奥の店内から拓海が顔を出して、ぼそっと呟く。
「…なまえ、声でけぇ。近所迷惑だから」
「冷たいなぁ、拓海は〜!久しぶりに来たのに!」
文句を言いながらも、なまえの顔は笑顔。
そんな彼女の様子を見て、文太は工具を置いた。
「…で?なんだ、こんな時間に。まさか、メシ食わせろってんじゃねえだろ?」
文太に促され、なまえは少しモジモジしながら切り出す。
「えっとね、文太おじさん…ちょっと大事な話があって…」
「…?」
「実は──あたし、啓介さんと付き合うことになったんだ!」
ガレージに一瞬の沈黙が落ちて、文太のタバコも、地面に落ちた。
「…はあ?」
まさかの報告に、思わず目を見開いた文太が、素で聞き返す。
「あの…赤城の、FDのガキか?」
「ガキじゃないもん!啓介さん、めっちゃカッコいいし!FDのことほんとに大事にしてて…何回でも惚れ直すくらい熱いの!」
奥で聞いていた拓海が、呆れ顔でぼそっと呟いた。
「マジか…。ふたりとも、物好きすぎんだろ…」
***
文太は新しいタバコに火をつけ、ハチロクのフロントに寄りかかって、細く煙をくゆらせた。
「いや…待てよ。あの啓介ってやつ、走りの腕は悪くねぇけどよ…なんか、こう…チャラくねぇか?」
「チャラくないもん!真面目だし、車の話するとき、目がめっちゃキラキラしてるの!それに、あたしのS13のこともちゃんと認めてくれるし!」
必死に反論するなまえに、文太は今度は太く、ふーっと煙を吐き出す。
「…ふぅん。ま、そこまで言うなら、悪いヤツじゃねえんだろうけどよ…──高橋啓介、かぁ…えー…」
どこか納得しかねてるような、でも否定しきれないような、複雑な文太の「えー…」が空気を揺らす。
「…動揺してるじゃん、文太おじさん」
笑うなまえに、拓海がコーヒーを片手にガレージへやってくる。
「ところでさ、どうやって告られたんだよ。あの啓介さんに」
「えっ、拓海、それ聞く!?」
なまえは一瞬焦ったけど、モジモジしながら口を開く。
「その…ずっと隣にいろよ、って言われて。…でもそのあとちゃんと、付き合ってくれって言われた…」
その言葉に、文太が感心したように唸る。
「へぇ。あのFDのガキ、決めるとこはちゃんと決められんだな」
ニヤニヤが止まらない文太に、なまえは赤くなったまま続ける。
「でね、文太おじさんが言ってたでしょ?“車はドライバーの心を映す”って──あたし、FDに乗ってる啓介さんの心、ちゃんと感じるんだよ」
「…ふっ」
文太は短く笑い、また煙を吐いた。
「まったく、お前ってやつは…ほんっと、どこまでいっても車バカだな」
***
その夜、文太の提案で、秋名の峠をなまえと拓海が一緒に走ることになった。
「高橋啓介に惚れられる女が、どれだけ走れるのか見せてみろ」
文太のニヤリに、なまえは即答。
「望むところっ!」
S13に飛び乗り、ハンドルを握る手には自信がみなぎっていた。
峠に響く、S13とハチロクのエンジン音。
コーナーを攻めるS13のラインに、拓海が思わず口を開く。
「…なまえ、わりとやるじゃん」
山頂で車を止めると、ハチロクの助手席から文太がゆっくり降りてきた。
「…なまえ、お前のS13──いい音してたぜ」
「ほんと!?やった!文太おじさんに褒められたっ!」
喜ぶなまえに、文太はタバコをくわえ直し、ボソっと呟く。
「…ただな。啓介のヤツがなにかやらかしたら、すぐ言え。FDだろうがなんだろうが──オレがハチロクでぶち抜いてやる」
「えっ、めっちゃ過保護!でも、ありがと!文太おじさん、大好き!」
なまえが思わず抱きつきにいくと、文太はあきれ顔でそっぽを向いた。
「ったく、ガキかよ…」
それを見た拓海が、肩をすくめながらつっこんだ。
「…ガキはどっちだよ」
夜の秋名に、笑い声とエンジン音が重なって響く。
その音は、きっとこれからも──なまえや啓介、拓海たちの未来を照らしながら、続いていく。
(おわり)
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