ターボ・シンパシー
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関東制覇を果たし、プロジェクトDはついにその幕を下ろした。
ガレージに静かに並ぶFD、FC、そしてハチロク。
いつものように整備が進められているが、今日はどこか、空気が違っていた。
どこか名残惜しげなメンバーたちの中、なまえは変わらずS13をガレージ脇に停め、オイルに染まったTシャツ姿でFDのボンネットを磨いている。
「やっぱFDのロータリーって、最高だよね。啓介さんの走り、マジで心に響いた!」
額に汗を浮かべながらも、その笑顔は最後までまぶしい。
ハチロクのタイヤをチェックしていた拓海が、半ば呆れたように言う。
「…お前、まだそんなテンションなのかよ。もうプロジェクト終わったんだぞ」
「えー、拓海つれないー。あたし、プロジェクトDのこと一生忘れないもん!」
そんなことを言い合っている最中、涼介が手元のデータシートを閉じて近づいてきた。
「みょうじ君。FDのセッティング、君の指摘がなければあのタイムは出せなかった。的確なサポートだったよ」
「えっ!?マジで!?やった、あたしまた涼介さんに褒められたっ!」
ぴょんと跳び上がって喜ぶなまえに、拓海はため息をつきながら頭を抱える。
「…ほんと、手に負えねぇ」
そのとき──
ガレージのシャッターが音を立てて開き、軽い足取りで現れたのは、サングラスにTシャツ、ラフなジャケット姿の高橋啓介。
その表情には、いつもの自信と、少しの落ち着きが混じっていた。
「よぉ、なまえ。最後の最後まで賑やかだな」
「だって!プロジェクトD、ほんとにカッコよかったもん!啓介さんのFD、どの峠でも一番輝いてたよ!」
なまえのまっすぐな言葉に、啓介はふいと目をそらす。
「…ま、当然だろ」
照れ隠しの声と共に、サングラスの奥の目が少しだけ優しく細められた。
***
打ち上げパーティーも終わり、赤城の展望台。
星がまたたく夜空の下、FDとS13が静かに並び、ふたりは肩を並べて立っていた。
なまえはS13のボンネットに手を置いたまま、しんとした空気の中で、ぽつりと呟いた。
「…プロジェクトD、終わっちゃったね。でもさ、啓介さんのFDと一緒に走れたこと、あたし、絶対に忘れないよ」
啓介はその横顔を見つめ、少しだけ真剣な声で返す。
「…お前って、ほんと車バカだよな」
「ちょ、なにそれ!急に失礼!」
なまえがむくれて言い返すと、啓介はFDのフロントに寄りかかり、星空を仰いだ。
「──でも、だからこそ、だ」
「え?」
「プロジェクトDは終わった。でも、オレの走りはまだ終わらねぇ。…これからも走り続ける」
そして、ひと呼吸置いて──
「だからさ、なまえ。ずっとオレの隣にいろよ。走る時だけじゃねぇ。ずっと、いつも──…一緒にいてほしい」
その言葉に、なまえの心臓が大きく跳ねた。
「え、えっ…それって、どういう…?」
言葉の意味は、たぶん分かってる。
だけど、確かめずにはいられなかった。
啓介はわずかに舌打ちをして、まっすぐなまえを見据える。
「…オレと付き合えって言ってんだよ。ったく、言わせんな、バカ!」
その声が、赤城の夜に響いた。
「えっ…ちょ…啓介さん、そんなはっきり言われたら、ドキドキしちゃうじゃん…!」
「うるせぇ、お前が鈍いからだろ!」
「そっちが突然すぎるんでしょ〜!心臓止まるかと思ったんだから!」
「心臓って…大げさだろ」
「だって…そんなん言われたら、嬉しいじゃん…」
「…っ、うるせぇ。調子狂うわ」
「なにそれ、そっちが告ったくせに〜!」
「告ったんじゃねぇ、“宣言”だっつの!」
「もう、宣言とか意味わかんないし!」
お互い照れながらしばらく言い合って。
その後、ふと息を吐いたなまえが、口元をゆるめた。
「でも…うん、いいよ。啓介さんの隣、走るのも、それ以外も──めっちゃ楽しそうだもんね」
「おう。覚悟しろよ?負けねぇからな、お前のS13にも、性格にも」
「はー?言ったなー!?そっちこそ、もっとFD鍛えて待ってなよね!」
笑い声が、静かな峠に響く。
星と月の光が、ふたりの新しい関係を静かに彩っていた。
***
数日後──秋名。
月明かりの中、黄色のFDと白のS13が並んで走っていた。
エンジン音が重なり、リズムを刻む。
助手席には、誰もいない。
なまえは自分のステアリングで走っていた。
無線が鳴る。
《…遅ぇぞ、なまえ。置いてくぞ?》
「言ったね、啓介さん!──絶対、負けないから!」
山道を縫うように並走する2台。
まるで会話するようにコーナーを抜け、そのたびに心が重なっていくようだった。
頂上に停めた車の前で、ふたりは夜景を見下ろす。
ハイタッチを交わして、啓介が笑った。
「これからも、ずっと走ろうぜ──なまえ」
「うん。啓介さんの隣、めっちゃ楽しいから!」
再び唸るエンジン。
FDとS13が、闇を切り裂いて駆けていく。
その音はもう“夢の終わり”じゃない。
ふたりで紡ぐ、“未来の始まり”だった。
──終わりは、始まり。
ふたりの走りは、これからも続いていく。
(おわり)
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