ターボ・シンパシー
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夜のガレージに灯る蛍光灯が、FDとハチロクのボディを柔らかく照らしていた。
明日に控えた栃木での峠バトルに向け、プロジェクトDの整備班は慌ただしく動いていた。
タイヤの摩耗チェック、アライメントの微調整、エンジン回りの最終確認──
ガレージには、工具の金属音と仲間たちの声が飛び交っていた。
その隅で、なまえのS13が静かに佇んでいる。
なまえ自身はオイルで少し汚れた頬のまま、FDの足元でタイヤのチェックを終えたところだった。
「やっぱさ…バトル前夜のガレージって、最高。この空気、たまんない!」
満面の笑みでFDのボンネットを拭くなまえに、ハチロクのボンネットを開けていた拓海がボソリと返す。
「…テンション高すぎ。手伝うならもうちょい落ち着け」
「ちゃんとやってるってば! ほら、FDのタイヤの摩耗、完璧に見たから!」
そこへ、ちょうど現れた啓介が呆れたように言い放つ。
「ったく、声でけーよ、なまえ。仕事は静かにやれ」
「もう、なによふたりして!…でもさ、明日絶対勝ってよね、啓介さん!FDのロータリーサウンド、一番カッコいいって保証するから!」
照れもせずに言いきるその言葉に、啓介はふっと目を細める。
「だったら──ちゃんと見とけよ?」
そのタイミングで、データシートを手にしていた涼介が静かに言葉を挟む。
「啓介。みょうじ君が提案したセットで、今日の走りは確かに変わった。レスポンスが向上してる」
「…ああ」
啓介は短く返したあと、なまえに視線を投げてぼそっと呟いた。
「…お前のアドバイス、悪くねぇな」
「でしょ!」
なまえは得意げに胸を張り、嬉しそうに笑った。
「啓介さん、明日絶対勝とうね!」
ガレージに満ちるのは、静かな緊張感とそれぞれの誇り。
そして──
誰より熱く、まっすぐな想いを持つ者たちの、闘志だった。
***
栃木の峠は、観客の熱気であふれていた。
プロジェクトD vs 地元チーム。
いよいよ、本番。
啓介のFDがスタート地点に並び、ロータリーの咆哮が夜を切り裂く。
観戦エリアで、なまえが拳を突き上げた。
「いけーっ!FD、ぶっちぎれーっ!!」
「…うるさい」
隣で拓海が呆れたように耳を押さえながらも、やはりその表情はどこか高揚して見える。
バトルは序盤から火花を散らす接近戦。
啓介のFDが、ランエボのテールにピタリと張りついて離れない。
「3速の立ち上がり、キレッキレ…!荷重移動、完璧…!」
双眼鏡を覗きながら、なまえが息を吞む。
直後、涼介の冷静な声が無線に乗る。
「啓介、次のヘアピン。進入でインを絞れ。立ち上がりで勝負するな。ブレーキングで刺せ」
《──了解》
啓介の声はいつになく落ち着いていて、それでいて獲物を狙うような鋭さがあった。
──そして、勝負どころの最終区間。
ランエボがわずかにラインを外した隙を、啓介のFDは逃さない。
強引すぎない絶妙なタイミングでインに突っ込む。
「いっけぇぇぇえっ!!」
なまえの声が弾けた。
そして──
黄色のボディが、先頭でゴールラインを駆け抜けた。
「…っ、やったーーー!!啓介さん、マジで最高っ!!」
飛び跳ねて喜ぶなまえに、拓海があきれつつも笑って言う。
「…騒ぎすぎ。でも…やっぱスゲェな、あの人」
ガレージには、勝利の空気があふれていた。
メンバーたちが喜びを分かち合う中、なまえと啓介の手が強く打ち合わされた。
「やったね!」
「──ちゃんと、見てたか?」
嬉しそうななまえに、啓介が小さく問う。
なまえは大きくうなずいた。
「もちろん!FDの音も、走りも…全部、全部心に響いた!」
「…まぁ、当然だろ」
啓介はそう言いながら、照れくさそうに目をそらす。
けれどその口元には、隠しきれない笑みが浮かんでいた。
そこへ拓海がやってきて、ボソッと一言。
「やっと終わった…マジで騒ぎすぎ、なまえ」
そんな言葉に、また笑い声が広がっていく。
***
その後、バトルの余韻を残しつつも、ガレージには静けさが戻っていた。
残っていたのは、なまえと啓介、そしてS13とFDだけだった。
ふたりは並んで車の前に立ち、夜の峠と街の灯を眺めていた。
「…啓介さん。今日の走り、本当にカッコよかった。“心”──ちゃんと、伝わってきたよ」
なまえの静かな言葉に、啓介も肩をすくめながら答える。
「そっか。なら今度はお前のS13──どんな“心”持ってんのか、オレにも感じさせろよ」
なまえが不敵に笑う。
「いいよ?絶対、ビビらせてやるから!」
「はは、いいな。期待しとくわ」
啓介の予想外に素直な反応に、なまえは少しだけ照れたように笑った。
ふたりの間にある空気は、もう以前とは違う。
張り合うようで、どこかやわらかく、確かにその距離を近づけていた。
(つづく)