ターボ・シンパシー
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プロジェクトDの車両たちが、次のバトルフィールド・栃木へと向かう日。
「あたしも行きたい!サポートするから!」
いつものように拓海にせがみつつ、なまえは涼介にもしっかり許可をもらい、同行が決定。
FDとハチロクは積載車で運ばれ、なまえのS13は自走でその後ろをついていく。
サポートという名の観戦同行だったけど、チーム内にはすっかり溶け込んでいた。
途中、高速のサービスエリアで休憩をとる一行。
なまえは缶コーヒー片手に、ぽつりと呟く。
「栃木の峠って、路面温度が下がりやすいでしょ?だったらFDのデフ、セッティング見直したほうがよくない?」
すぐそばのベンチでコーヒーを飲んでいた啓介が、ちらりと目線を向ける。
「…お前、ホントうるせーな。オレのFDのセッティングは完璧だっつーの」
「ふーん?じゃあなんで前回、コーナー出口でテール滑ってたの?LSDのイニシャルトルク、ちょっと高めにしてるでしょ?」
「…っ」
ムッとした啓介が何か言い返そうとしたその瞬間、涼介が淡々と口を挟む。
「彼女の見解は正しい。路面の変化に対するリアの反応がやや遅れていた」
「…チッ、わかったよ。後でチェックすりゃいいんだろ」
ぶっきらぼうに言いつつも、なまえの笑顔が視界に入ると、啓介は小さく目を逸らして呟いた。
「…まぁ、悪くねぇ指摘だったけどな」
その後ろで、拓海がため息をつく。
「なんでオレが、なまえの保護者ポジなんだよ…」
「拓海、置いてくよー!」
S13に飛び乗るなまえの声が弾ける。
その姿を見送りながら、啓介は思わず笑った。
「ほんっと、元気すぎんだろ。あいつ…」
***
バトルのテスト走行が終わり、メンバーたちは宿へと戻っていく。
だが啓介となまえの姿は、峠道の展望台にあった。
エンジンを止めると、夜の空気が一気に広がる。
FDとS13が並ぶ、静かな夜。
なまえは自分のS13のボンネットに寝転がり、空を見上げる。
「…やっぱ峠の夜って、最高。エンジンの余韻と星空と…なんか、自由って感じがする」
啓介はFDのフロントに寄りかかりながら、ふっと笑った。
「詩人みてえなこと言うじゃん。それにしてもお前──なんでそんな車バカなんだよ?」
なまえは少し考え、ぽつりと答える。
「…やっぱ、小さい頃から車に触れてたからかな。エンジン音聞いてると落ち着くんだよね。車ってさ、自由で、熱くて、ちょっとバカで、最高なの」
星を見上げる彼女の表情が、無垢で、まっすぐで。
それが不意に、啓介の心を揺らす。
「…わかるよ、その気持ち」
啓介も空を見上げ、珍しく穏やかな声で続けた。
「昔のオレはさ、ただのバカだった。喧嘩ばっかして、どこにも居場所がなくて。でも、峠でFD走らせるようになって──やっと、生きてるって思えた」
そっと、FDのボディに触れる。
「こいつはオレの心そのものだ」
その言葉に、なまえがゆっくりと身を起こして啓介を見つめる。
「…めっちゃ、カッコいいじゃん。FD、めちゃくちゃ愛してるんだね」
「愛してるって…言いすぎだろ」
そっぽを向いた啓介に、なまえはいたずらっぽく笑いながら近づく。
「照れてる〜?」
「照れてねぇよ」
「じゃあさ、啓介さんのFD──もっと見せてよ。心、感じたいから」
その“真っすぐな言葉”に、啓介は一瞬、返事に詰まる。
けれどすぐ、視線を外さずに返した。
「…明日、助手席乗せてやるよ。ちゃんと感じろよ、“オレの心”」
「やった! 約束ね!」
星が瞬く夜空の下、ふたりの間に流れる空気が、わずかに近づいた。
「…お前のS13もさ、いつか本気で走らせてみろよ」
「うん!」
その返事が、夜の峠に溶けていった。
***
翌日、プロジェクトDのテスト走行再開。
なまえはFDの助手席に乗り込んだ。
シートベルトを締める手が、どこか楽しげに揺れる。
「…スピンしたら、マジ許さないからね!」
「ハッ、オレを誰だと思ってんだよ」
啓介がニヤリと笑い、FDのエンジンが唸りをあげた。
ロータリーの咆哮が峠の空気を切り裂き、コーナーを抜けるたび、なまえの声が飛んだ。
「うわっ、すっごい切れてる…!でも、3速のシフト、もう0.2秒早めたらもっと流れ良くなるかも!」
「…うるせえ、黙って乗ってろ!」
そう言いながらも、口元には笑みが浮かんでいる。
──ほんとに、すげえやつだな。こいつ。
走行後、FDから降りたなまえは目を輝かせて言った。
「啓介さんの走り…マジで心感じた!FD、めっちゃカッコよかった!」
「…ふん。お前がそう言うなら、そうなんだろ」
照れ隠しのためかそっけなく答える啓介だったが、その目の奥には、確かなやさしさが浮かんでいた。
ガレージに戻ると、涼介がデータを見ながら言う。
「啓介。ここ数回のテスト走行の中で、今回が一番いい。みょうじ君のアドバイスが効いたようだな」
「…チッ、たまたまだろ」
不機嫌そうに返しつつも、ふと横を見る。
「…まぁ、サンキュな」
その小さな声に、なまえはぱっと笑顔になる。
「どういたしまして!」
エンジンが繋ぐ心と心。
その距離は、今日も少しずつ近づいていく。
(つづく)