ターボ・シンパシー
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その日、赤城の山道にはFD3Sの唸るようなロータリーサウンドがこだましていた。
プロジェクトDのテスト走行。
拓海に誘われ、なまえもメンバーたちと共にチェックポイントに立っていた。
コーナーを切り裂くように走り抜ける黄色のFD。
その走りに、なまえの瞳がキラキラと輝く。
「うっわ…FDのロータリー、やっぱエグい!身体の奥までゾクッてくる音!」
興奮気味に話すなまえを、拓海がこっそり肘で突っつく。
「…声でけぇって」
「でもさ…3つ目のコーナー、ちょっとフロント外に流れてなかった?サス硬めにしてるから、アンダー出てた気がする」
「…お前、ホントよく見てんな」
拓海が苦笑しながら感心していると、背後から静かな声が聞こえた。
「いい観察力だ」
振り返ったそこには、白のシャツにジャケットを羽織った高橋涼介が立っていた。
「啓介のFD、今の仕様ではフロントの接地感に課題がある。君の見立ては、的を射ているよ」
「えっ…マジで!?あたし、涼介さんに褒められた…!」
なまえがガッツポーズで飛び上がり、拓海は頭を抱えた。
「…そこかよ。てか頼むから、調子乗るなよ…」
しばらくして、走行を終えた啓介が戻ってきた。
額には汗、だけどその顔はいつもの自信に満ちた笑みを浮かべていた。
「よお、素人さん。オレの走り、どうだった?」
その言葉に、待ってましたとばかりになまえがにっこり笑って言い返す。
「最高にカッコよかったけどさ。3つ目のコーナー、フロント滑ってたよね?荷重のかけ方、もう少し意識した方がタイム伸びるかも」
「…は?なんだよ、また口だけで偉そうに」
啓介が眉をひそめたそのとき──
「彼女の指摘は正しい。データにも、フロントの不安定な挙動が出ていた」
涼介がすぐそばで淡々と補足を入れる。
啓介は舌打ちしながら、なまえを一瞥。
「ったく…お前、ほんっと生意気だな」
「生意気じゃないもん。ちゃんと“見てる”だけ!」
なまえのキラキラした目と、負けん気に満ちた笑顔に、啓介は「ふん」と鼻を鳴らす。
けれどその胸の奥では──「こいつ、やっぱタダモンじゃねえな」という興味が、少しずつ膨らみ始めていた。
***
整備がひと区切りつきメンバーたちが帰っていく中、啓介はひとり、FDのエンジンと向き合っていた。
工具を握るその手に、少しだけ疲れが滲む。
「…このタービン、もう限界か。高回転で、やっぱ抜けが悪い」
その呟きを、離れた場所でS13のカタログを見ていたなまえが聞き逃さなかった。
「やっぱそう思う?T04Eもいいけど、GTX3076Rとか、攻めるならアリだよね。レスポンスとパワー、どっちもイケる」
啓介がぴたりと動きを止め、振り返る。
「…お前、どこでそんなマニアックな知識仕入れた?」
なまえはちょっと照れくさそうに笑いながらも、どこか誇らしげに答えた。
「小さい頃、両親忙しくてさ。ほとんど文太おじさんちにいたんだよね。ハチロクいじってるの見ながら育ったから、車のことばっか頭に入っててさ。──“車はドライバーの心を映す”、って、よく言われてた」
「…文太さん、か。なるほどな」
ボンネットに手を添えながら、静かに呟く。
「あのハチロクは…たしかにバケモンだ。でも、オレのFDだって負けてねえ。文句言いながらも、ちゃんと応えてくれる。──相棒みたいなもんだ」
「わかる!」
なまえの声が弾む。
「あたしのS13もそう!走ってると、ほんと…心が通じてる感じ、するんだよね」
啓介が、思わず笑みをこぼす。
「…変な女。でも、嫌いじゃねぇかも」
「あっ、それ認めた!?」
「認めてねぇよ。でも、どこまでやれるか──今度、見せてもらおうじゃん。お前のS13」
「よっしゃ、秋名で勝負する?」
「おー?いい度胸してんじゃん。だけどまあ、10年早えよ、素人さん」
「だからもう、“なまえ”だってば!」
ガレージに響くふたりの笑い声。
蛍光灯の光が、FDとそのそばの少女を、あたたかく照らしていた。
***
数日後、なまえは再び赤城へやってきた。
──今度は、自慢のS13で。
ガレージ前に停まったその車を、啓介が腕を組んで眺める。
「…へぇ。なかなかやるじゃん。自分でいじったんだろ?」
「当たり前!タービンもサスも、自分の“好き”しか詰めてない!」
堂々と胸を張るなまえに、啓介がニヤリと笑う。
「じゃあ、今度──オレのFDの助手席、乗ってみろよ」
「…えっ」
「お前の言ってた、“心が通じる走り”。実際に感じてみりゃいい。──オレの、FDで」
なまえは一瞬言葉を失って、ぽかんと口を開けた。
「…ま、マジで!?乗る乗る!でも、スピンしたら許さないからね!」
「はっ、オレがスピン?冗談きついぜ。しっかり見とけよ──なまえ」
その時初めて、自分の名前を呼ばれた。
その一言に思わず胸がくすぐったくなる。
だけど、なまえはすぐに満面の笑みで返した。
「…うん!楽しみにしてる!」
夕陽に染まる赤城山のふもと、FDとS13が並ぶ光景の中──
ふたりの距離が、少しだけ近づいた。
(つづく)