きみの隣で、夜が明ける
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翌日。
いつものように、仲間たちと峠に集まる。
けれど、その空気は──微妙に、いや、確実に違っていた。
「…なんか、ぎこちないよな」
「おいおい、とうとう…?」
誰かがボソッと呟いた瞬間、ニヤニヤした視線が一斉にふたりへ向けられる。
「…は?」
啓介が眉をひそめ、不機嫌そうに反応する。
「何がとうとうだよ」
「やったな、啓介!」
その一言で、騒ぎは一気に加速した。
「お前、昨日さあ?」
「いやもう、空気が違ったもん!」
「朝からテンションおかしいって!」
啓介は大きくため息をつきながら、手でうるさそうに払いのける。
その隣で、なまえは視線をそらしながらも、ちょっとだけ不思議に思っていた。
(…なんで、みんな昨日のこと、そんなに知ってるの?)
「てかさー、オレらちゃんと空気読んで消えたのに、ほんっとに気づいてなかったの?なまえ!」
「は?」
「いやいや、昨日な、啓介から連絡きて『今日、うまく空けてくれ』って言われたから──」
「ちょ、お前言うなって!」
「言うなって、それもうバレてるじゃん!結果出てるし!」
仲間たちの笑い声の中で、なまえはぽかんと口を開いたまま、硬直した。
(…うそ。昨日のふたりきりって、偶然じゃなかったの?)
脳内で、昨夜の出来事が巻き戻されていく。
峠に着いたとき、誰もいなかった理由。
啓介がスマホを見ながら「都合悪くなったんだってよ」と言ったあの言葉。
あのときの、妙な言い方──
「まあまあ、啓介くん?言い訳しても無駄だぞ〜?」
「はあ? 別に何も──」
「ほらほら、顔赤くなってるし!」
「は? なってねえし!」
「照れてる照れてる〜!」
「うるせえ!」
次々に飛び交うツッコミを受けながらも、啓介はどこか諦めたように肩をすくめて、小突くように仲間たちを押してまわる。
「で、で?お前ら、付き合ったってことでいいの?」
「どうなの、なまえ?」
質問が自分に向けられた瞬間、なまえは思わず啓介を見た。
すると──
啓介がふっと笑って、なまえの方を見ながら言う。
「…勢いに飲まれたわけじゃねぇらしいし?」
(…っ!)
その言葉とともに、昨日の自分の言葉が鮮明に蘇る。
「うわああああ!」
「はい確定ー!」
「マジかよマジかよ!」
「もう早く言えってば!」
「よし、祝杯だな!」
啓介はうるさいなぁとばかりに眉をひそめながら、缶コーヒーを手のひらで転がす。
そして、ふと仲間たちを見渡しながら、ぽつりと呟いた。
「…まあ、あれだ」
場の空気がふっと静まる。
「サンキューな」
それは──明らかに、仲間たちへ向けた言葉だった。
なまえの胸の奥に、じんわりとあたたかいものが広がる。
(…そっか。みんな、わたしたちの背中を、押してくれてたんだ)
「…え?!」
「なんだよそれ!いきなりすぎ!」
「くっそ、こっちが照れんだろ!」
「言い方渋すぎんか!?もうちょいはっきり言えよ!」
ツッコミが飛び交う中、啓介は小さく笑う。
「ま、いいってことよ。次の飲み代でな!」
「このやろう…!」
悪態をつきながらも、その声はやわらかくて。
笑い合う仲間たちの顔が、今夜はいつもより、あたたかく見えた。
(つづく)