きみの隣で、夜が明ける
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「…答えを出せよ、なまえ」
狭い車内。
触れそうな距離。
その一言は、静けさを切り裂くように落ちた。
「…急に、そんなこと──」
戸惑いの声を遮るように、啓介の声が低く響く。
「急じゃねぇ」
その目は真っ直ぐで、逃げ出すことなんて許してくれない。
「気付いてないとは、言わせねぇよ…」
胸がぎゅっと締め付けられる。
目を逸らせば、きっと何も変わらないで済む。
でも、それはきっと──嘘だ。
「…でも」
かすれた声で言いかけた瞬間、啓介がすかさず重ねてくる。
「でも、じゃねぇ」
強い言葉。けれど、どこか苦しそうでもあった。
「オレはもう、こうしてるだけで限界なんだよ」
沈黙が落ちる。
缶コーヒーはすっかり冷えきっているのに、啓介の声と視線と、車内に残る熱だけが、じりじりとなまえの身体を包む。
そして──ふいに。
唇が、重なった。
拒む理由なんて、なかった。
息を呑む間もなく、胸の奥に眠っていた想いが、確信へと変わっていく。
(…たぶん、わたしも。啓介が、好きだから)
触れ合う熱が、言葉よりも早くそれを証明していた。
夜の峠、静まり返った車内。
ゆっくりと交わされたキスは、ふたりの関係が変わっていく音だった。
***
帰り際。
エンジンがかかると、静かな振動がふたりの間を満たす。
その中で、啓介がぽつりと呟いた。
「…悪かったな。強引だった」
ルームランプに照らされた横顔。
少しだけ眉が寄っていて、素直な後悔がにじんでいた。
なまえは唇をきゅっと結び、窓の外に視線を向けた。
「…勢いに飲まれたわけじゃ、ないから」
小さく。けれど、はっきりと届く言葉。
その言葉に、啓介はしばらく黙ったまま、ハンドルに視線を落とした。
やがて、ほんのわずかに口元が緩む。
「…なら、よかった」
夜の静けさを切り裂くように走り出すエンジン音。
流れていく風景は、何も変わらないようでいて、もう違っていた。
ふたりの距離も。
関係も。
あのキスも。
今夜から、もう──戻らない。
──そして、きっと、それでいい。
(つづく)