きみの隣で、夜が明ける
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車のドアが閉まった瞬間、バンという音がやけに大きく響いた。
その音とともに、夜の冷気がシャットアウトされる。
けれど代わりに──もっと濃密なものが、車内を満たしていく。
(…車って、こんなに狭かったっけ)
何度も乗った助手席。
何度も見た、啓介の横顔。
慣れているはずの景色なのに、今夜はなぜか息が詰まるほどに近く感じた。
静かな車内。
窓の外には、闇と星と、風の音だけ。
缶コーヒーのラベルを、なまえは意味もなく指先でなぞる。
「…なあ」
その静寂を破るように、啓介の低い声が落ちてきた。
「…今日さ、いつもと違くね?」
「…え?」
ドキッとする。
問いかけの意味を悟る前に、心臓が勝手に跳ねる。
「いや…なんか、いつもはお前、こんなに黙んねえじゃん」
苦笑まじりの言葉に、ようやく気づく。
自分がどれだけ言葉を慎重に選んでいたか。
でもそれは──啓介も同じだった。
言葉が続かないまま、車内に沈黙が落ちる。
そのときだった。
「…もう、限界なんだけど」
静かな声。
けれど、内側に熱を孕んでいた。
「…何が?」
思わず啓介を見る。
ステアリングの上に置かれた彼の指先が、かすかに揺れていた。
もうふざけて誤魔化したりできない。
いつもの調子なんて、とっくに消えていた。
「…お前との距離」
言葉が落ちた瞬間、息が止まる。
静かな夜、狭い車内。
触れそうで触れられない距離が、もどかしくて、熱くて、怖いほどに真っ直ぐだった。
もう、きっと。
気づかないふりなんて、できない。
(つづく)