きみの隣で、夜が明ける
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「…ちょっと、寒くない?」
ふと漏らしたなまえの声は、夜の峠に静かに溶けていく。
思ったよりも風が冷たくて、手にしていた缶コーヒーのぬるい温度が頼りなく感じた。
「ん?…まぁ、夜だしな」
啓介は何気ない調子で返しながら、缶を飲み干し、そのまま軽く伸びをする。
──その瞬間だった。
「あ」
腕を戻した啓介の指先が、なまえの肩にふれる。
ほんのわずかな接触。
けれど、それだけでふたりの間の空気が、ぴたりと止まった。
いつもなら、笑って流していたはず。
肩がぶつかったって、ふざけて押し返すくらいの距離感だったのに。
(…今日のこれは、違う)
静かに、確かに、胸の奥がざわめく。
「…悪ぃ」
啓介がぽつりと謝る。
でも、なまえの口はなかなか開かなかった。
言葉より先に、肩に残ったぬくもりのほうが意識に残っていて。
それがじわじわと広がっていく。
「…寒いなら、車入っとくか?」
ぽつりと落ちたその言葉。
何気ない響きのはずなのに、啓介の声はいつもより少しだけ低かった。
その低さに、胸が静かに脈打つ。
「…うん」
小さく頷いたなまえの声も、どこか掠れていた。
夜の冷たい空気と、ふいに触れたあたたかさ。
その両方が、まだ心から消えないまま──ふたりはそっと、車のドアを開けた。
(つづく)