きみの隣で、夜が明ける
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
啓介の「ふーん?」という気の抜けた反応に、なまえはむっとしてそっぽを向いた。
たった一言なのに、どこか引っかかる。
(なんか…その言い方、気になるんだけど)
視線を逸らしながら、内心でふくれていたそのとき。
ふと、周囲の空気が変わったことに気づいた。
最初は、ぎこちなかった。
仲間たちがいないというだけで、いつも通りに笑うことが少しだけ難しくて、缶コーヒーを開けたのも、会話を探したのも、間を埋めるためだった気がする。
けれど。
「なあ」
沈黙を破るように、啓介がふいに口を開いた。
「…確かに、悪くねぇな」
「…え?」
思わず顔を向けると、啓介は缶コーヒーを片手に、夜の先を見つめたまま、ぽつりと続けた。
「ふたりきりって、いつもなら考えねぇけどさ」
その声は、冗談っぽさの抜けた、低くて静かな響きだった。
なまえの胸の奥で、なにかがふっと音を立ててほどけていく。
――気づいた。
ほんの少し前まで、ただの“いつもと違う夜”だったはずの時間が、今、確かに「特別」へと変わっていったことに。
「…そう、だね」
なまえもまた、声をひそめて応える。
缶コーヒーのぬるくなった温度、夜の冷たい空気、隣に座る啓介との距離。
そのすべてが、静かに、じわじわと心を満たしていく。
この瞬間から──ふたりの時間は、確かに新しい何かへと、動き出していた。
(つづく)