きみの隣で、夜が明ける
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「…やることねぇな」
啓介がふっと息をついて、手にした缶コーヒーのプルタブを開ける。
夜の峠は、普段よりずっと静かで、虫の声さえ遠くに聞こえるほどだった。
「ほんとだね」
隣で、なまえも同じように缶を開ける。
口に含んだ苦味が、どこか胸の奥のざわつきを煽る気がした。
いつもなら、賑やかな声やエンジン音が響いている時間。
けれど今は、ふたりきり。
「…なんか、変な感じするよね」
ぽつりとこぼれたなまえの言葉に、啓介がゆるく視線を向ける。
「変な感じ?」
「うん。なんか、いつもと違うっていうか…妙に静かっていうか」
「…まあな」
缶を手のひらの中でころころと転がしながら、啓介は目線を夜の闇へ落とす。
沈黙が気まずいわけじゃない。
でも、確かに――何かが、いつもと違っていた。
「でもさ」
なまえの声が、少し小さくなる。
指先で缶の縁をなぞりながら、言葉を選ぶように続けた。
「…こういうのも、悪くないかもね」
その瞬間、啓介の瞳がふっと細められる。
そして、片方の口角だけを軽く上げた。
「…ふーん?」
からかうような響きに、思わずなまえはそっぽを向く。
(なによ、その顔…)
拗ねたふりをしながらも、胸の奥にある温度は、どこかじんわりとあたたかかった。
ただ静かに流れる夜と、ぬるくなっていく缶コーヒー。
その心地よさが、今のふたりの距離をそっと包みこんでいた。
(つづく)