きみの隣で、夜が明ける
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夜の峠へ向かう車内。
助手席に座るなまえは、どこか落ち着かない気持ちで窓の外を見つめていた。
啓介の隣に座るのは、もう何度目か分からないくらい慣れたはずの位置。
彼の運転で出かけるのも、これまでと同じはずだったのに──
(…なんか、今日の空気、違う)
胸の奥がざわつくのを、自分でも理由がうまくつかめないまま、車は峠へとたどり着いた。
けれど、待っていたのは、さらに深まる違和感だった。
「…あれ?」
なまえが小さく声を上げる。
そこには、誰の姿もなかった。
いつもなら、バイクの音や笑い声、仲間たちの賑やかな気配で溢れているはずの場所。
なのに、今夜に限っては、ただ静かな風が吹いているだけ。
「…なんか、都合悪くなったんだってよ」
スマホを見ながら、啓介がぽつりと呟いた。
「でも、どうする? オレらも帰るか?」
変わらないように聞こえるその声。
だけど、なまえはふと彼の横顔を見て、胸の奥が少しだけ軋んだ。
(本当に…帰るのかな)
自分でも不思議なくらい、その言葉が喉の奥に引っかかる。
そして、ほんの少しの間のあと──なまえは意を決して口を開いた。
「…ねえ、せっかくだし、ふたりで楽しもっか」
言い終えた瞬間、心臓がどくん、と跳ねる。
顔を見なくても、啓介が驚いたのが分かった。
ちらりと目を向けると、啓介は一瞬だけ目を丸くし──そして、すぐに口元をゆるめた。
「へぇ…珍しく、お前からそう言うんだな」
「…珍しくないよ」
視線をそらしながら、なまえはそう返す。
けれど、その声は少しだけ震えていた。
本当はわかっている。
今日の夜は、たしかに何かが違う。
仲間たちがいない、ふたりきりの時間。
この沈黙さえも、どこか意味を含んでいるようで──
これがきっと、いつもと同じではいられない夜の、始まりだった。
(つづく)