きみの隣で、夜が明ける
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夜の峠道。
車のボンネットに並んで腰掛け、見下ろす街の光が、ふたりの沈黙をやさしく包んでいた。
さっきまでの騒がしい空気が嘘のように静かで、秋の夜風が少しだけ冷たい。
だけど──
隣に啓介がいると、不思議と寒さは感じなかった。
「…あのさ」
ふいに、啓介が低く口を開く。
「…オレら、ちゃんと付き合ってんだよな?」
その言葉に、なまえはきょとんと目を丸くし、ぱちぱちと瞬きを繰り返した。
「え、えっ?な、なに急に…?」
「いや…あいつらにも言われてたし、空気的にはもう、そうなってる感じだけど…」
そこまで言って、少しだけ目をそらす啓介。
「──ちゃんと言葉に、してなかったよなって」
「…う。たしかに…」
なまえは少し照れくさそうに視線を落とした。
言われてみれば、たしかに。
昨日の夜から、気持ちはすでに通じ合っていた。
でも──「好き」とも「付き合おう」とも、はっきり言葉にした記憶はない。
「…でも、啓介は、こうしていつも隣にいてくれるし…それで充分伝わってたし、伝わってると思ってた…」
「…そっか。オレも、そう思ってた」
小さく笑う啓介。
けれど、次の瞬間にはその顔がほんの少しだけ引き締まる。
「…でもな。あいつらが、わざわざ背中押してくれたろ」
ふたりきりになるように仕組んだ昨日の夜。
からかうような、でもどこかあたたかい今日の空気。
すべてをわかったうえで、今、ここにいる自分たち。
「…そうやって誰かに背中押されて、やっと気づけたんだよ。ちゃんと伝えなきゃ、って」
夜風に髪が揺れる。
照明のない山道。
でも、啓介の瞳だけは、まっすぐなまえを見つめていた。
「…オレ、お前が好きなんだ。ちゃんと、ちゃんとそう思ってる」
その声は、不器用で、でもまるでブレーキを外すみたいに滑らかで。
星空の下でこっそり打ち明けられた秘密みたいに、静かに響いた。
なまえは、思わず目を伏せた。
でも──口元を、ふっと緩める。
「…わたしも。ちゃんと、好き。…啓介のこと」
言葉を重ねたその瞬間。
冷たい風の中、ふたりの間にだけ、ほんの少し──春みたいな温もりが流れた気がした。
──街の光が、ぼんやりと瞬いていた。
(おわり)
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