ふたりで、未来を走る
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季節は秋。
少し肌寒い風が、なまえの髪をやさしく揺らしていた。
涼介の同級生──「結月(ゆづき)」と名乗る美しい女性に呼び止められたのは、大学の帰り道だった。
「あなたが、なまえさん?涼介と付き合ってるって聞いたけど…」
その声には、棘はない。でも、どこか冷たかった。
「わたし、涼介とは中学から一緒なの。付き合ってはいなかったけど、…特別だったのよ、たぶんお互いに」
そう言って、彼女は懐かしそうに微笑んだ。
「高校の頃、よくふたりで図書館に通ってた。手も、繋いだことあったと思う。彼がわたしの名前を呼ぶときの声…忘れられないの」
なまえは言葉を失った。
涼介がそういう話をしてこなかったのは、彼なりの思いやりだと思っていた。
でも…知らないところで、そんな関係があったなんて──
「あなたが彼の隣にいるのが、なんだか不思議だった。でも…そうね、涼介は優しいから。誰にでも、ちゃんと優しい。だから、あなたにも優しくしてるだけかもね」
あまりにも静かに、けれど鋭く突き刺す言葉だった。
なまえはその場を逃げるように去った。
心臓が、ひどく速く打っている。
(…わたし、ただの“誰にでも優しい”相手の中のひとりなの…?)
足もとが、少しふらついた。
立ち止まって深呼吸をしようとした、そのときだった。
「…なまえ?」
耳に届いた声に、びくりと肩が揺れる。
聞き間違えたかと思った。けど──
「…啓介…」
振り返れば、そこに立っていたのは紛れもなく彼だった。
見違えるほどじゃない。でも、どこか、大人びたような。
何より、その目が、まっすぐに自分を見ていた。
ふいに、視界がにじむ。
驚きや喜びが言葉になる前に、涙がこぼれ落ちていた。
「…なんだよ、泣くなって…」
啓介は小さく息を吐くと、迷わず、なまえを抱きしめた。
優しい力だった。壊さないように、でも離れないように、そっと包むようなぬくもり。
「…アニキと、なんかあった?」
耳元で、そう問いかける声は低くて、落ち着いていて、でもどこか切なげで。
「…ううん、なんでも…ないの…」
掠れた声で、そう言ったけれど、身体は小さく震えていた。
「…なぁ、なまえ」
少し間を置いて、啓介が静かに言った。
「アニキを想ってていいよ。…オレはもう、大丈夫だから。でも…甘えろよ。しんどい時くらい。…な?」
その声が、あたたかすぎて、余計に涙が止まらなくなった。
「…ありがとう、啓介…」
しがみつくようにして、なまえは彼の胸に顔をうずめた。
優しい腕が、ゆっくりと背中をさする。
「アニキが泣かしたんだったら、約束通り、ぶん殴りにいってやるんだけどな」
啓介の言葉に、なまえが小さく笑って──違うよ、って返せるようになるまで。
(つづく)