ふたりで、未来を走る
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なまえ2は、よく笑う子だった。
誰かに話しかけられたとき。困っている子を助けたとき。
自然に、にこっと笑える――そんな子に見えた。
けれど啓介は気づいていた。
どこかその笑顔が「完璧すぎる」ことに。
作り物だと言うわけじゃない。でも、ふとした瞬間、何かを隠すように笑う顔があった。
ある日、駅前のカフェ。
啓介となまえ2は、たわいもない話をしながら笑い合っていた。
ふと、隣のテーブルに座っていた数人の女子たちの会話が耳に入る。
「ねぇねぇ、なまえ2ってさ、またサークルでチヤホヤされてたよねー」
「ほんと愛想だけは良いもんねー」
「でも中身ないし。媚びてるだけじゃん?」
なまえ2は、その瞬間、顔をピクリとも動かさなかった。
代わりに、啓介が憤る。
観葉植物の影、背中を向けていたなまえ2に気づいていないにしても、その言い草はどうなんだ。
しかし啓介が立ち上がるより早く、なまえ2の手が啓介の手に触れた。
目は啓介を見ていない。ただ静かにコーヒーに口をつける。
啓介はその様子に、ぎゅっと胸を締め付けられて。
動くことができなかった。
帰り道。沈黙が長く続いたあと、なまえ2がぽつりと呟いた。
「…わたし、小さい頃から“笑っていなさい”って言われて育ったの」
「…え?」
「機嫌が悪いと嫌われるから、笑ってなさい。みんなと仲良くするために、笑ってなさい。…そうやって生きてきたから、うまく笑えないと、自分がなくなる気がするの」
「…それって、本当に“笑えてる”って言えるのか?」
なまえ2は、黙って前を見つめた。
「…でもな」
啓介は、少し声を強めて言った。
「この前、雨の中で笑った時の顔。あれ、忘れられなかった」
「…え?」
「髪びしょ濡れなのに、なんか楽しそうに笑っててさ。…あの時のなまえ2の笑顔、むちゃくちゃ可愛かった。作ってるとかじゃなくて、“そのまま”で笑ってた。オレ、そう思った」
その言葉に、なまえ2の目が、ふっと揺れた。
「…それ、本気で言ってる?」
「本気じゃなきゃ言わねぇよ。オレ、そんな器用なタイプじゃないし」
ほんの一瞬、風が吹いて、なまえ2の髪を揺らした。
その時、なまえ2の口元が、ふわりとほどけるように笑った。
作っていない、飾っていない。
本当に心から、自然に浮かんだ笑顔だった。
その日から、なまえ2の笑い方は少し変わった。
誰かのためにじゃなく、自分の気持ちに素直に笑うようになった。
そして、啓介に向ける笑顔だけは、いつも――
どこか少し、照れていて、嬉しそうで、あたたかい。
(つづく)