ふたりで、未来を走る
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あの夕暮れの日から、数週間が過ぎた。
ベンチで泣いていた彼女――なまえ2とは、それきりだったはず、だった。
けれどある日、大学の図書館の静かな空気の中で、啓介はふと顔を上げた。
向かいのテーブルで本を読んでいたその人も、ふと顔を上げる。
「…あ、啓介くん?」
なまえ2だった。
お互いに、驚いて、でもすぐに笑った。
「…偶然、だな」
「うん。びっくり。なんだかちょっと…嬉しいかも」
静かな再会。けれどその温度は、あの日の夕暮れよりも少し、あたたかかった。
「この前は、ありがとう」
「礼を言われるようなことは何も。泣き顔見ただけだしな」
「…あの時、本当は誰にも見られたくなかったんだけど…啓介くんでよかった」
その言葉に、不思議と胸の奥がじんとした。
なまえ2と話すとき、自分の中にある“なまえへの想い”が、ほんの少しだけ静かになる。
彼女はそれを無理に忘れさせるわけじゃない。
ただ、ちゃんと“今ここにいる自分”を見てくれる気がした。
何度か偶然が重なって。
そのうち啓介は、なまえ2の連絡先を聞いた。
「オレ、連絡不精だけど…たまに、話したくなるかも」
「ふふ、わたしも。寂しがり屋だから」
「…オレも、かもな」
笑い合うふたりの距離は、ほんの少しずつ、でも確実に近づいていった。
ある日の帰り道。
雨に降られて、コンビニの軒下に駆け込む。
「かさ、買うか?」
「ううん、ここまで濡れたら一緒だし…」
なまえ2は濡れた髪をかき上げながら、いたずらっぽく笑った。
「それに、啓介くんと一緒だったら、ちょっと楽しいかもとか思っちゃった」
心臓がひとつ、大きく音を立てた。
「今の、ちょっと…」
「え?なんか言った?」
「…なんも」
啓介はそれ以上何も言わなかった。
でも、胸の奥が少し、温かくなった。
(あの日から、オレは――ちゃんと進めてるのかもしれない)
なまえの面影が消えたわけじゃない。
でも、なまえ2の存在が、胸の奥に新しい“空気”をつくってくれている。
それは、恋の始まりとは違うのかもしれない。
でも、優しくて、静かで、あたたかい――希望だった。
(つづく)