ふたりで、未来を走る
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
大学の帰り道。
キャンパスの裏手、木漏れ日が揺れる道を、啓介はひとり歩いていた。
初夏。気温は心地よく、風が頬をなでる。
ふと、足を止める。
脳裏に浮かぶのは、なまえの笑顔。
「…ほんと、まだ引きずってんのか、オレ」
誰にも聞こえないようにぼやいた。
なまえと涼介が並んで歩いているところを、偶然見かけた日。
あの距離感の自然さに、胸がきゅっと痛んだ。
(でも――それでいいんだろ)
きっと、あのふたりはちゃんと繋がってる。
静かに、深く。自分じゃ届かない場所で。
そのとき、不意に視界に入ったのは、ベンチで泣いている女の子だった。
年は、自分と同じくらいか少し下。
周りの視線を気にしてか、肩を震わせるだけで声を出さずに泣いている。
啓介は一瞬、迷った。
けど――気づけば体が動いていた。
「…大丈夫?」
驚いた彼女が顔を上げる。
涙で濡れた目が、まっすぐこちらを見た。
「ごめんなさい、変なとこ見られちゃった…」
「別に。人間、泣きたいときは泣いていいんじゃない?」
「…っ、ありがとう…」
そうして、彼女の隣にそっと腰を下ろす。
会話は少なかったけど、空気はやわらかかった。
「名前、聞いてもいい?」
「…なまえ2。あなたは?」
「啓介」
そのとき、初めて。
なまえ以外の誰かの名前が、胸の奥にふわりと落ちた気がした。
(今はまだ、振り向けないけど…でも、こうして誰かの涙に手を伸ばせたなら。オレは、少しだけ前に進めたのかもしれない)
笑うことはまだ難しいけど、少なくとも――心は止まってない。
なまえを本気で好きだった。
今も、きっと好きだ。
でも、誰かの隣に立つ未来――その誰か、はなまえだけじゃないかもしれない。
そして、それもまた“愛する”ってことのひとつの形なのかもしれない。
(つづく)