ふたりで、未来を走る
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「涼介くん、…紅茶、いれるね」
なまえはそう言って、台所に立った。
なんとなくぎこちないその後ろ姿に、涼介は小さく目を細めた。
恋人になって、まだ数日。
慣れ親しんだ幼なじみのはずなのに、今は隣にいるだけで、互いの鼓動が静かに跳ねる。
「ミルクは、…入れてよかったよね?」
「ああ。なまえがいれてくれる紅茶は、何も変わらずに美味しい」
返事をしながら、涼介はそっとなまえの指に触れた。
あの夜、手を繋いで初めて知った。
彼女の手は細くて、少し冷たくて、でも強くて。
何より――自分の手を決して離さないと信じられる温度だった。
カップから湯気が立つ。静かに流れる時間。
ふたりきりの部屋に、時計の音だけが響いていた。
「…変じゃない?」
なまえがぽつりとつぶやいた。
「なにが?」
「幼なじみだったわたしたちが、急に“恋人”って呼ばれてること。…ちょっとまだ、慣れないの」
涼介は笑わなかった。ただ静かに、真剣なまなざしでなまえを見つめた。
「なら、慣れるまで、俺が毎日“恋人らしく”するだけだ。…お前が、『もう大丈夫』って思える日まで」
その言葉に、なまえの胸がじんわりとあたたかくなる。
「…ずるいな、そういうとこ」
「知ってる。でも俺は、お前のことならずるくても構わない」
ふたりはソファに並んで座った。
涼介はそっとなまえの髪を耳にかけ、目を見つめる。
「なまえ。恋人になったってことは、これからは、遠慮せずに頼ってほしい。俺に全部、見せてくれていい」
「…全部、見せても嫌いにならない?」
「なるわけがない。お前の強さも、迷いも、意地っ張りなところも。全部知って、好きになったんだから」
そう言って、涼介はもう一度なまえの指先をそっと握った。
優しいキスみたいに、指と指が重なり合う。
それは、約束のようだった。
誰よりも静かで、誰よりも確かな愛のかたち。
夜が更けていく。
けれど、ふたりの心は灯りのように、ずっと温かく寄り添っていた。
涼介の愛し方は、やっぱり静かで、あたたかくて――だけど、誰よりも深かった。
(つづく)