ふたりで、未来を走る
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なまえは、幼なじみの家の居間にいた。
隣に座るのは、穏やかに笑う兄・涼介。
ソファの背に肘をかけ、こっちを覗き込んでるのは、弟の啓介。
「お前ってさ、ほんと放っておけねぇんだよな」
啓介が言う。冗談のように笑いながら。
「それは俺のセリフだよ。昔から、困ったとき真っ先に泣きついてきたのは誰だったかな」
涼介は、静かな声で茶をすする。優しい目は、ずっとなまえを見ていた。
なまえはふたりの視線に気づかぬふりをして、笑ってみせた。
子どもの頃から一緒だった。
涼介は、勉強もスポーツもできて、何より“頼れる存在”だった。
啓介は、無邪気で、いつだって全力で守ろうとしてくれる“太陽”だった。
家族みたいに、自然にそばにいた。
だけど──
その空気が変わったのは、なまえが大学に入って、少しだけ彼らと距離ができた頃。
ある日、突然啓介に言われた。
「オレ、お前のこと女として好きなんだよ。ずっと、アニキみたいに“見守る”とか無理だった。…オレは、なまえが欲しい」
そのときから、なまえの心がざわめき出した。
啓介の言葉はまっすぐで、何の迷いもなかった。
だけど、その夜なまえが帰ろうとしたとき、涼介が玄関で彼女の手を取った。
「…なまえ。俺も、伝えなきゃいけないことがある」
その声は穏やかで、それでも決して揺らがなかった。
「啓介よりずっと前から、お前を好きだった。けれど、お前を困らせるくらいなら黙ってようと思った。でも…今は、違う。好きだ、なまえ。俺は、お前を手放したくない」
あの静かな瞳が、初めて強い想いを宿していた。
なまえの心は揺れた。
いつも誰かのために動いてきた彼女が、初めて“自分の気持ち”と向き合おうとした。
涼介の優しさも、啓介の情熱も、どちらも嘘じゃない。
でも、どちらかを選べば、もう一方を傷つけてしまう。
数日間悩み抜いた末、なまえは、ふたりの前に立った。
「…どっちかを選んだら、きっと、もう元には戻れないよね。それでも、ちゃんと伝えなきゃいけないと思った」
彼女の目はまっすぐだった。震えていても、曇ってはいなかった。
「わたしは──涼介くんを選ぶ。啓介の真っ直ぐな気持ちも、本当に嬉しかった。でも、わたし、あの時気づいたんだ。何かに迷ったとき、一番に顔が浮かぶのは、涼介くんだったって」
啓介は唇を噛んでいた。
でも、すぐに目をそらし、乱暴に頭をかいた。
「そっか。ならいいんだ。オレの気持ちはホンモノだったから。でもな、なまえ。泣かされたら、オレがぶん殴りにくるからな」
そう言って、ふっと笑った。
涼介は、何も言わずなまえの手を取った。
ただその手を、あたたかく包み込んで、こう囁いた。
「ありがとう。…これからは、俺が“選ばれたこと”を、証明するよ」
静かな夜。
ふたりは肩を寄せ合って歩いていた。
啓介の残した情熱も涼介の深い愛も、なまえの胸にしっかりと刻まれていた。
でも今、彼女のそばにいるのは──
過去も、迷いも、未来も、すべてを包み込むように寄り添ってくれる、ひとりの男だった。
(つづく)
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