半鬼ヒカリが、テメノスさんに拾われてなんやかんやあって愛の指輪を貰うお話

脱衣所に足を踏み入れ、音を立てずに棚を目指した。もうあと三歩先には、彼の肌色がモザイクのガラスに滲んでいる。
ヒカリは着替え台に乗り上げ、棚に手を伸ばした。縦に三つ並んだバスケットのうちどれかに、布巾が紛れ込んでいる。さいわいなことに、それはひとつ目で見つけることができた。脇に抱え、足早に戻ろうとする。

「あっ……」

湯気が溢れ出し、甘い香りが漂う。身体が動かなかった。
テメノスは一糸纏わぬ姿が、突然現れたのだ。彼は浴室前の絨毯に片足を踏み入れている。
あとほんの少し前にでも、咄嗟に背中を向ければ良かった。後悔は遅れて押し寄せてきた。

「ヒカリ?」

「……す、すまぬ。決して覗き見などでは……布巾を、取りにきただけで……」

彼の裸体から視線を逸らし、弁解も歯切れが悪い。
今も顔にまとわりつくような浴室の熱が、顔や耳までもを赤く染め上げている気がしてならない。

同じ男の裸を、ここまで恥ずかしく思うのは人間としても鬼としても、おかしいのかもしれない。

「いえ……大丈夫ですよ。すみませんが、そこにある洗顔の詰め替えをもらいたいのですが……」

「……っ、ああ、これだな」

あたりまえだが、テメノスの声色からは動揺は伺えない。
ヒカリは胸の内で自分を叱咤したのち、洗面の下をのぞいた。石鹸やら洗剤のストックの中に、彼のいう詰め替えのパックが見つかった。ヒカリはそれを彼にすばやく手渡す。

「……ありがとう」

唇が柔らかく弧を描いたのが分かった。目の前に差し出されたような白い鎖骨の窪みを、湯水のしずくがとおる。思わず、喉が動いた。

彼はガラスの向こうに戻っていった。再びシャワーの音が聞こえてくる。
ヒカリはしばしその場から動けなかった。
この目にしっかりと焼きついている彼の裸体が、自分を抱擁したら、どんな気持ちだろうと考えた。きっとこの胸は甘く縛りつけられる。上から、彼の顔が近づいてくる。あの時のように、指先が、熱のもとへとゆっくり伸ばされて——

『……大丈夫ですから、私に委ねて』

脳裏によみがえった彼が止まらなくなってしまう前に、ヒカリは踵を返した。
部屋を後にしてしばらくしても、身体のどこもかしこも火照っていた。上着を脱いでも、額や首にうっすら汗が滲んでいる。

まさか熱をぶり返してしまったのだろうか。一度でも彼の感触を思い出してしまったせいで。

違和感を覚えたまま、湯浴みと寝支度を済ませた。元々は別々に寝ていたが、彼がソファで寝ていると知ったヒカリは、ひどく申し訳なくなったのだ。話し合いの末、ヒカリの故郷では床にしとねを敷いて寝るということもあり、小さな部屋に寝床を並べるようになった。良い思い出ではあるが、今日の夜は、かえって気まずい。
彼が扉をノックして開けた瞬間、ヒカリは布団に潜った。彼に顔を見られぬよう背を向けた。

「消しますね」

『おやすみ』は、無かった。部屋は一瞬で夜闇に包まれた。あるのは枕元の小さな橙色の灯りのみ。
痛いほどの沈黙が続く。枕に耳を当てると心音がうるさい。寝返りを打つと、布擦れの音がやけに大きく感じる。
こんな日に限って、眠れない。

こうも静かだと、頭の中は反対に忙しなくなる。
目を閉じると、食事の後にテメノスが見せた悲しげな顔が浮かぶ。
正しくなくても、頭は勝手に仮説を立てる。ヒカリに現実を告げた彼の本心は、もうヒカリと暮らせない——というところにあるのかもしれない。

カーテンが少し空いていた。暗い真夜中の空を、灰色の雲が泳いでいる。雲たちはいずれ消えるか、雨となって降り注ぐしかない。彼らを動かす夜風の冷たさが、肌を粟立たせた。
己のほんとうの行先は、どこだろう。人でも鬼でもない己は、流されることも叶わない。後ろ向きな声が、混じり合う。呼吸が浅くなってゆく。

鈍いふりをしても、宵闇にじっとしていると、傷が疼く。だから元々夜は好きじゃなかった。
テメノスといると、こんな痛みもいくばくかやわらぐ気がしていたはずだった。月詠を、彼のように美しいと思うようになれた。

これまでテメノスからは言葉や素養など、世界で生きるための多くを教わってきた。その恩を返したいと思ってきた。
鬼の国の王族であるヒカリは、城内の書庫にある書物を繰り返し紐解いている。
今から三百年ほど前、鬼は人間を蹂躙し、その血肉を喰らっていたという。
それが史実であるなら、ヒカリが半鬼であることが知られたあかつきには人々は己を恐れるだろう。それは、仕方のないことだ。
だが、自分と暮らしているテメノスも、危険な目に遭ってしまうとしたら?

「……ヒカリ、起きてますか?」

「え? ……ああ」

布団の端を軽く引っ張られたことで、ヒカリは我に返った。時計を見ると、眠ろうと試みて半刻も経っていたことが分かる。
ここしばらくは互いによく眠れていたはずなのに。寝る前には余計なこと話さずに、しじまに身を委ねているだけで良い。それが心地よかったのだ。
ヒカリは彼の方を向いた。彼は背中を向けていたが、待っていると、やがて視線が合わさった。
何か言いたいことがあるのか。自分から尋ねてもよかったが、暗闇の中にある彼の表情が気になった。鬼の目を使えば闇でもくっきりと見つめられるが、そうするのがとても難しく感じている。

「布団を増やすか迷ったのですが……寒くないですか?」

それは、いつも彼がくれる気遣いの言葉。ヒカリは拍子抜けしながらも、うなずいた。

「……ああ、大丈夫だ」

また、会話がなくなった。また背中を向けるわけにもいかず、視線のやり場に困ってしまう。
彼が小さく息を吐いた。布団から出てきた手が、白髪をかき分けて耳にかけた。

テメノスの翠のひとみは、不思議と夜に埋もれない。だから真面から見るのはむずかしい。けれどふと視界を掠めたとき、それは揺れていた。

「……今夜のうちに、ヒカリに伝えたいことがあって」

「伝えたいこと……なんだ?」

なんて事のないように尋ね返すが、ほんとうは、その先を聞くのを怖がっていた。

「ヒカリ……ごめんなさい」

「……っ」

謝るということは——やはり次は、ヒカリに出ていってほしいと、そう告げるのだろう。強く噛みすぎていた奥歯が、わずかに軋んだ音を立てた。

「夕食のあとの……強く、言いすぎてしまいましたよね」

「……え?」

洗いたてのシーツのしわが、みじろぎひとつで形を変えた。
テメノスの手が、ヒカリに近づいた。隙間もわずかななかでは、簡単に届くが、躊躇うように止まる。

「だから……今日のうちにあなたにきちんと謝りたかったんです」

ああ、そうか。大きく息を吐いた。
彼はただ、謝っている。それは自身に向けた、紛れもない気遣い、優しさだ。
ヒカリは首を横に動かした。

「……そなたの言うことは正しかった。俺の、考えが足らなかったのだ」

あんな風に目立つようなことを自分からしたのは、浅慮だった。知識が足らないだけでは済まされないだろう。だというのに彼は、ヒカリの気持ちを気にかけてくれている。

「いいえ。私の方こそ、あなたが危険な目に遭わないか心配で、つい……一方的になってしまいました」

テメノスは彼にとってのヒカリは、心配されるほどの存在というのが、嬉しかった。彼は真剣で、似つかわしくないことはわかっているが、それでも。

「……俺が鬼と知っても、テメノスは優しいままだな。その優しさにずっと、助けられてきた」

シーツの上に据えた手の甲の、薬指が薄く煌めいた。月明かりに反射しているのだろうか、光の差し込む先に空かしてみると、普段は銀なのに、いまは淡い青を放っている。普段は外して眠っているから気がつかなかった。とても、綺麗だ。

「この、指輪……そなたはお守りだと言ってくれたな」

ヒカリの故郷では、指の装飾品は存在自体稀な方だ。鬼の体質上、大きさの変わる部分を飾ることはしないのだ。ゆえに物珍しくもあったのだが、何よりも初めて彼から貰ったものでもある。いつも身につけていた。

彼は半身を起こし、指輪に手をかざした。
混じり気のない青色の輝きが広がり、二人の間を埋めてゆく。

「……それには、聖なる魔力を纏わせてあるんです。純血の鬼にとっては猛毒のようなものですが、人間でもあるあなたの場合は徐々に身体が順応することができている——だからもしものとき、あなたを守ってくれるはずです」

「……そう、だったのか」

言われてみれば、最初の頃は身につけていると妙にびりびりと軽く痛むような気はしていた。日を追うごとに弱まっていき、気にならなくなったが。

「恩に切る、テメノス……これからも、大切にする」

テメノスがそこまで考えてくれたことが、このうえなく嬉しい。嬉しさを通り越した、こそばゆさが込み上げて触れた頬が熱くなっていた。

「ところで——」テメノスは少し身体を横に近づけ、ひそめた声で尋ねかけた。「ヒカリは、悪魔をご存知ですか」

少し、頭を巡らせただけでわかった。この街が平和なぶん、ひとつだけ歪だったものがある。

「……もしや、前に森にいた、あの異形か?」

テメノスは頷いた。
ヒカリは追い出されるまでは、祖国を出たことはない。だが、離れたところに他種族の国があることは知っている。悪魔とやらも、そのうちの一つかもしれない。こちらとは呼び名も違うこともある。

「人間の心の隙間に入り込み、魂を食い物にする。それが悪魔です。人間は神の力を借りることで長年彼らに抗い続けている」

彼はカーテンのほうをじっと見据えながら、さらに言葉を足した。

「……以前にあの森に逃げ込んできたのは完全に取り込まれてしまった人間の成れの果てでした」

灰燼のように消えてしまったあの男の魂は、現世に帰ってくることも叶わない。彼だけじゃない。数多の人々が悪魔の犠牲となっている。

どの世界においても、命が理不尽に奪われてしまうことが幾度もある。
故郷では戦争、この世界においては……悪魔だ。

「……鬼たちもかつては人間を喰らい、人間もまた彼らを憎み……天災に阻まれるまで戦争を繰り返していた」

書庫の奥にあった史書の内容を確かめるように口にしながら、ひとつの結論が思い浮かぶ。

「鬼も……やはり、同じか」

悪魔とやっていることは変わらない。人の命や魂を奪う。
テメノスを見遣ると、重々しく頷いてみせた。

「ええ……悪魔も鬼も、人間にとっては同じです。脅威として、排除しようとする」

悪魔には角があった。ヒカリのものとは全く形状が違うが、人間を超える身体能力も含めて、彼らには悪魔と同じに感じるだろう。

テメノスは半身を起こした。深い息を吐きながら、下を見つめている。重たい前髪を掻いて、こちらを向いた。普段の彼にしては、少し荒々しい。

「……実は私、祓魔師の端くれなんです」

「……そう、なのか」

思い返せば、初めて会った日の彼は変わった服装だった。白いケープを羽織り、くるぶしまである長い法衣を着ていた。
街でも魔法を見たことがないし、仕事の話をそれとなく避けていた。

「隠していて、ごめんなさい」

テメノスは頭を下げた。驚きはするが、失望はしなかった。彼は、このまま隠し通して、ヒカリを祓魔師の組織のもとに突き出すことだってできたはず。なのにそれをしなかったのが、答えだ。

「……良いのだ。そなたは、俺を信じてくれるのだと、分かったからな」

「ありがとう——」テメノスは顔を上げ、こちらをまっすぐ見つめ返した。彼は、真実のひとだ。ヒカリはいつだって、誰かを信じていたいと思う。どんな真暗闇の中に放り込まれても、それはきっと変わらない。

「……私ね。最初は、あなたを疑ってた。聖魔法が効かない羽を持たぬ悪魔に似た存在は初めてでしたから」

それもまた、彼らしい。しかし、引っかかる部分もある。あの宵は、何もかもが初めてだったはずなのだから。

「だが……そなたは、俺を連れて行ってくれた。なぜなのだ?」

「……悪魔か否かを見極めるために、監視を、しようと決めてはいました」彼の伏せられたまつげが瞳に影を落とす。少し黙り込んで「でも」と続けた。「強いていうのなら……あのときは、寂しそうだったから、でしょうか。今思えばですけど」

髪を耳にかけるのに、短いせいですぐに落ちてくる。また、かける。
テメノスは感情を取り繕うのが巧みなのだろう。その仕草は、どこかごまかしにも見える。

「らしくないですよね」とつけ加えて、彼は自嘲するように微笑った。
確かに、祓魔師としては正しくない行動理由なのかもしれない。けれど——

「……なにが正しいか、真実なのかは、俺には分からぬ。だが、そなたは俺自身を見てくれた。俺たちの時間は、真実だった。俺は……そう信じている」

彼は顔を上げた。鬼の夜目を使い、暗闇を払いのけて彼と目を合わせると、彼そのものが月光のようだと知る。おのずと、まぶたを狭めていた。

「あなたは、私たちと何も変わらない……真っ直ぐで、優しい、深い心を持ったひとです。私は、あなたを悪魔と同じとは思わない」

彼の言葉が通りぬけたとたん、心臓がきゅっと締めつけられる。布団の中で汗ばんでいたつま先を丸めた。

それは感慨というよりは、もっと複雑めいていた。苦しいような気もするけれど、どこか甘く疼く感じがする。甘さは頭のてっぺんまで上り詰めて、奇妙な浮遊感をもたらす。
宵闇に紛れている彼のほんとうの顔を、いつまでも見つめていたい。

「ヒカリ——」

テメノスはヒカリに手を差し出すよううながし、両手で包んだ。
祈りのしぐさかと思ったが、目を閉じる気配はない。

「ヒカリが故郷に帰るための道を見つけられるように。これからも力になります」

清廉な誓い。されど、今度はこの胸に痛みがよぎる。
ヒカリは、祖国に帰るための道を探しているのだと、テメノスに話していた。それこそがヒカリの望みなのだと、彼は信じているのだ。
道を探したくないわけではない。ただ、まだ見つからないでほしい、と思う自分もいることに気づいてしまった。
自分で願いを口にしておいて、身勝手なのだろうか。ヒカリは曖昧な笑みを作った。

「……ああ、ありがたい」

テメノスはうなずいたが、少しして、首筋を片手で擦りはじめた。「とはいっても……」先ほどまでのしかつめらしい表情から変わり、苦笑いを浮かべた。

「なんだかこのところずっと、ヒカリに家事を任せっきりになっちゃってますよね。頼ってるのは、むしろ私の方かもな」

なんだ、そんなことか。口にする代わりに、ヒカリは小さく息を吐いていた。テメノスはよく、自分を真面目というけれど、彼も大概だ。
だがその共通点こそが、時間を共にできている証ともいえるのかもしれない。

「二人で暮らしているのだ。互いにできることをすればいい」

どちらかが背負いすぎることなどない。そんな考えが、半年前の自分にあったとは思えなくて、少し、驚いてもいる。前の自分は、他人に弱さなど見せられなかった。

「また、私にも何かご馳走させてくださいね。腕によりをかけますから」

そう言って、腕捲りをしてみせた。
この家に来たばかりの頃、テメノスはヒカリに食事を作ってくれた。温かいスープに、サラダ、パンケーキ。
人間の料理は、あれが初めてだったのでよく覚えている。

「ああ……テメノスの手料理か。少し、久しぶりだな。楽しみにしている」

「今となっては、ヒカリほどじゃないので……期待しすぎないでくださいよ?」

テメノスは知らないのだろう。自分のために作られた料理が心を満たすものなのだと教えてくれたのは、彼自身なのだと。だから今度はヒカリの手がけたもので、彼を喜ばせたい。そう思ったのだ。

「巧拙は関係ない。そなたが俺のために作ってくれる……それが何よりも、嬉しいのだ」

気づけば、今度はヒカリの方から、彼に近づいていた。
テメノスは一瞬、繰り返しまばたきをしたが、片手を浮かせた。
頭に来るかと思い、ヒカリはつい目をつむりかけた。だが、どうしてかそれは額に触れた。人差し指をらしきものに、突かれた。次は鼻先に、頬に。

「……っ、テメノス?」

流石に意図が読めず、目線で訴えた。さっきまで無表情に近かったが、今は面白いのか、少し口元が緩みだしている。翡翠色の瞳に内包した光が、ちらちらうつろう。
ようやく手が止まり、今度はヒカリの頬を包んだ。いつかヒカリの熱にひとたびでも触れていたことを、わずかでも思い出さずにはいられない。

「ヒカリっていつも、まっすぐだな、と思ってね。たまには力も抜いていいんですからね」

悪戯めいていて、どこか親しいひとに見せるように、砕けた顔をする。
はじめて見る彼の姿に、瞬きにさえも震えがともなう。
きっとまぐれだと分かっていても、ヒカリは彼に吸い寄せられたまま動けない。

「……う、む」

まごついているあいだにも、彼はヒカリから離れてしまう。そして、少し乱れた布団を整え、白布の海に身体を預けた。

「また、夕飯にヒカリが食べたいもの、教えてくださいね」

「ああ……寝るのか?」

「ええ……」返事の直後、彼はあくびをした。もともと疲れていたようだし、本当は、眠たかったのではないだろうか。

「じゃあ……おやすみなさい、ヒカリ」

「おやすみ、テメノス」

彼が目を閉ざし、寝息を立てはじめるまでそう時間はかからなかった。
ヒカリも、布団に潜り込んだ。
しかし、まぶたは一向に重たくならない。

「……」

心臓の音がうるさかった。太鼓が打ち鳴らされているかのように、身体中に重たく響いてくる。
しばらくしてヒカリは、自分の頬にさっきまであった感触を思い出していた。
彼がしたように、指で突いたり、頬に手を置いた。彼の手は、滑らかで柔らかかった。
我ながら何をしているのだろうとは思う。まだ、混乱しているのだ。

顔が、熱い。
やっぱり、そうなのだろうか。
己は、彼を好いているのだろうか。
恋をしたことがないからわからない。祖国では、男の鬼たちが次々と女を引き込んでつがいにする。ヒカリはその慣わしに、ずっと違和感を抱いてきた。
母も父だけをひたむきに愛していた。やはり自分も同じになるのだろうか。少し前までは、漠然と考えていた。

彼のそばにいたい。
でも、それは叶わないのだと解っていた。
これまでだってそうだった。ヒカリの願いは掴む前に消えてしまう。
通じ合っていたはずの友たちとは遠く離れ、多くの民たちは炎に沈んだ。
光あふれる未来を願い、己に名前を授けてくれた母は、今のヒカリを見てどう思うのだろう。

ひとときでもいい。全てを溶かしてくれる微睡が訪れるのを、ひたすらに待った。


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