2023年没作品詰め合わせ

突然だが、俺は今、式場の真ん中で頭を抱えていた。その場に頽れているようにも見えるだろう。
だが、この脳天をも突き抜ける電撃は、俺に立たせる力ごと奪い去ってしまった。

「おいおい、誰だか知らねーけど、邪魔になんぞ?」

声の主を見れば、赤髪の少年が俺を見下ろしていた。身に纏っているものがやけにその焼けた肌の露出を強調しているのが気になったが、手を差し出されたのでありがたく握らせてもらった。「すまない。ありがとう、少年」

彼は一瞬目を丸くして、その燃えるような髪を揺らし、フンと鼻を鳴らした。
俺は首を傾げた。何か気に触ることをしただろうか。

「俺は男じゃねーっつの!」

「えっ……」

愕然とする。確かに、声は女性と言っても遜色ないほどよく通るが……つい胸元を見る。分からん。

「このっ……助平が!」

綺麗な足蹴りを喰らった。砂漠の覇王樹が脇腹に突き刺さるが如く、強烈だった。

後から知ったが、彼女はライラという踊子らしい。確かに歩くたびに音の鳴る装飾品や、戦いには向かないような衣装はそれたらしめている。
過去に暗殺されかけていたヘルメスという著名な踊り子に懇意にされており、界隈では名が売れ始めているのだとか。全く知らなかった。
俺は前機関長の負債の清算のため、ひたすらに業務に明け暮れていた。ゆえに娯楽などに手を伸ばす余裕などなかったわけだが、これを機に舞台などを見にくのも悪くないだろう。最も、そんなふうに考えることができたのは、挙式から数週間後の話だったがな。

とにかくあのライラという娘は、同じく呼ばれてきたヘルメス、そしてアグネアも交えて、晴れ舞台を盛大に祝う役者としてステージ上で舞い踊った。

俺は花びら舞う煌びやかな光景を茫然自失として眺めていた。光魔法が飛び交ってやたら眩しく、目にカラフルな斑点が見えたが構わなかった。

胸に秘めておいたクリックの形見に触れる。
きっとあいつも、テメノスの婚約を祝っていることだろう。あいつは昔から真っ直ぐなやつで、俺は根本から作りが違うんだと、そう分からされるのに時間を要しなかった。だがカルディナに選ばれたことで、その意識も瓦解し始めていたんだ。
ああ、馬鹿だった。いつだって、あいつが正しいのにな。
クリックの信じた、テメノスもまた真実を貫く人だった。俺は瀕死で薄らぐ意識の中、あの人に光を見た。清い、青い炎。神聖なそれは、触れることは許されない。だから俺は、祈りを捧げたんだ。どうか、俺たちを導いてくれと。

クリックのようにはなれないが、また別の在り方で、あの人を見守ろうと決めた。
恩義もある、だから彼が誰を愛そうが受け入れると腹を括っていたわけだが。
俺は盛大な勘違いをしていたらしい。

てっきりあの妖艶な雰囲気のある、ソローネとかいう女人と結ばれたものかと、俺はずっと思い込んでいたんだ。
だってそうだろう? 同じ家の中で過ごしていたようだし、俺がテメノスを訪ねに行くと、一緒にいるのをよく見かける。
だが聖堂のお膝元では周囲の目もある。そう考えて砂漠の国で二人仲睦まじく、慎ましやかに暮らすことにしたものだと、勝手に考えていたのだが。
嫁を食わせてやらなくてはいけないから、司教となって新設された教会で勤める道を選んだのだろう。
俺は彼の仕事が板についた頃、彼のもとを訪ねた。
テメノスは指輪をはめていた。どうやら本格的に婚約したらしい。察した俺は茶を啜り、話題を切り出す機会をうかがった。
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